2016年の為替相場はどうなる? – その2 –

【著者】

為替相場に影響を与えそうな要因を順番に列挙する。

1、米利上げ観測
2、日欧などの追加緩和観測
3、中国元やドルペグ通貨の変動相場制への道
4、商品市場
5、世界貿易の縮小
6、信用リスク・プレミアムの拡大
7、地政学的リスク

3補足:ドルペッグ通貨の変動相場制移行で、米ドル高へ

変動相場制採用に向かっているのは中国元だけではない。ロシアは2014年に、ルーブルの柔軟なペッグ制である「クローリング・ペッグ」制を廃止した。2015年に入ってウクライナとベラルーシもこれに追随した。カザフスタンも変動相場制を導入した。

他に、アゼルバイジャン、サウジアラビア、ナイジェリア、エジプト、アンゴラ、アルジェリア、ベネズエラなど、管理相場制を採用しながら国庫に余裕がなくなってきた産油国などは、ドルペッグ制を維持できなくなると取沙汰されている。

どの国も通貨安でこそ輸出競争力を得る。1990年台のアジアの奇跡は、ドル安に連動したアジア諸国が競争力を得て、日独などの先進工業国に追いついたものだ。その日独も80年代前半までの通貨安時代に先進工業国への基盤をつくった。つまり、ドルペッグ制は、米ドルが安い間だけペッグ通貨諸国に恩恵を与える。

1997年のアジア通貨危機は、1995年以降のドル高につれて高くなったアジア通貨諸国が競争力をなくした危機だった。

近年の変動相場制への移行は、ドル高について行けない国々によるものだ。移行後のそれら通貨はいったん安くなる。相対的に主要国の通貨が幾分高くなるといえる。

4:商品市場の上値は重く、資源国通貨が弱含みか

世界の商品価格がリーマンショック後の安値水準にある。

原油相場に代表させると、原油探査や採掘技術の進歩で、確認埋蔵量は増え続けている。コストが合えばいくらでも売りたい、また現状の需要との兼ね合いでは無尽蔵に売れる国々がある。温暖化対策で発電や自動車ですら化石燃料離れが潮流となり、需要の急増は見込めない。供給サイドは、35ドルで売れるところもあれば、50ドルでしか売れないところもあるが、原油価格の上値には無尽蔵の売りが控えている。

原油に限らず一時の高値は、長く続く価格の低迷を呼び起こす。魅力的な高値は、増産技術推進のための投資を集中的に増加させるので、供給能力が高まりコストも下がるからだ。通常は、需要に勝る供給力を得ることになる。

参照チャート:天然ガス
天然ガス

商品市場の下落は、一時的な高値の、長期的な反動だ。設備投資を集中させても供給力が増えなかったモノ、あるいは供給に勝る需要が見込めるモノ以外の上値は重くなる。

5:世界貿易の縮小で、ますますマネーに頼るようになる

ジェトロによれば、2012~14年の輸出ベースの世界貿易の伸び率は0~2%台だった。15年はマイナスとなる様子だ。こうした貿易の縮小を背景に、海運価格と世界の商品需要の指標、バルティック・ドライ指数は1985年来の低水準にまで下落した。

また、各国共に製造業の低迷が目立ち、見た目の経済成長は非製造業や在庫増によるところが大きい。

製造業が弱いので、多くの国は景気対策として緩和的な政策を採っている。モノが動かないので、マネーを増やしているのだ。その結果、長年にわたって世界は行き場を求めるマネーで溢れている。

現時点で見られるのは、美術品などのオークションで、記録的な高値の更新が相次いでいる。また一部の国、一部地域で住宅バブルが起こりつつある。ニューヨークやサンフランシスコでは、定職に就きながら家が買えず、家賃も払えず、ホームレス化する人たちが出てきている。

日本でも11月の首都圏新築マンション1戸当たりの平均価格は前年比21.1%上昇の6328万円となった。都心の高額物件が全体を押し上げ、1991年6月の6946万円以来24年半ぶりに6000万円を突破した。

他にも局地的なバブルが起きる可能性が高い。

6:信用リスク・プレミアムの拡大で、米ドルが買われる

リーマンショック後の未曽有の緩和政策、カネ余りで、商品、株式、債券などすべてが買われた。商品は高値が供給増を生んだが、景気後退で資金調達の需要は低く、株式、債券の供給はあまり増えなかった。むしろ、カネ余りで需要が大きく増えた。その結果、株価が高値を追うのと同様に、債券の利回りは低下、信用リスクのプレミアムも縮小した。
つまり、ジャンク債が最も買われた。ジャンク債の市場規模は約1.4兆ドルと08年から3倍程度に膨れあがった。

量的緩和の資金供給が続き、短期金利が低い間は、低利回りの債券でも、運用難から買われる。しかし、リスクの少ない短期金利でそれなりの利回りが取れるようになると、マーケットリスクの大きな長期債、信用リスクの大きなジャンク債の魅力が低下する。つまり、ジャンク級の長期債の魅力が最も低下する。元本を大きく割り込んだジャンク債投信のなかには、清算に至ったり、顧客に資金の引き出しを禁止するところが出始めた。解約禁止や資金の引き出し禁止は証券投資のルール違反だ。

ジャンク債の値崩れは随分前から始まっているが、商品関連のように本業での信用リスクの拡大でなければ、超高値からの自律的な反落だった。今後は、短期金利上昇という、債券市場全体の値崩れから、売られる可能性が出てきた。まだカネ余りが続くので、国債などは崩れにくいが、信用リスク・プレミアムは今後も拡大する可能性が高い。

ジャンク債の相対的な魅力を低下させたのは、短期金利の上昇だ。今後も米ドルの短期金利商品はその魅力を高め続ける。ジャンク債が売られるのと裏腹に、ドルが買われる可能性が高いといえる。

7:地政学的リスクは、ドル買いにつながる可能性が大きくなる

日欧中国などが緩和的で、2016年にカネ余りの解消が急激に起きる可能性は低い。そのため、有事が起きると何かが売られるが、一方で、何かは大きく買われることになる。地政学的リスクは、起きる場所によるが、原則的にリスク資産が売られ、安全資産が買われる。

この時、安全資産にそれなりの利回りがあれば、長く持てる資産となる。米金利の引き上げは、有事の際の米ドルの魅力を高めることにつながるといえる。

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矢口 新

独自テクニカルで『相場のタイミングを捉える』 矢口 新

大学卒業後、国内外の大手証券会社にて為替、債券のディーラー、機関投資家セールスを勤めた後、株式会社ディーラーズ・ウェブを創業(2002年5月~2013年5月)。2013年4月まで同社代表取締役社長。