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☆2017年の見通しー4

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【前回記事】2017年のイベント

日欧の金融政策

日本に先立ちマイナス金利政策が導入されたユーロ圏では、銀行の存続そのものが危ぶまれている。欧州中銀は米サブプライムショック後に利上げしたため、その影響を大きく受けていたスペインやアイルランドの経済成長は大きく落ち込んだ。リーマンショック後には利下げしたが、こうした一連の金融政策の恩恵を受けたのはドイツだけで、金融政策の不公平感を露呈した。

一時は、スペインに次ぐ、高失業率となっていたアイルランドは、ユーロ圏掟破りの財政出動を行い、いち早く回復に向かった。財政規律を優先したフランスを含む諸国は、未だに2桁台の失業率に苦しんでいる。そんな中で、ドイツは失業者数も半分以下に減少した。

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そのドイツの銀行がマイナス金利政策では苦しんでいる。マイナス金利政策は、理屈の上では可能で、実際に運用されているのだが、市場経済の本質にはそぐわない。金銭に限らず、資産を持つ者が、その資産を必要とする者に、期間限定で貸し出し、利息相当の見返りを受けるのは自然な姿だ。
例えば、大家が住宅を無料で貸出し、おまけに居住者の光熱費や生活費の負担もさせられるとすれば、市場経済は成り立たない。通常はこうした行為を略奪と呼ぶ。

マイナス金利政策は、当局による金融機関への略奪行為で、こうした行為はことさら例外的な行為ではない。例えば、昔の大名や軍隊が宿所と定めた寺や大家は、そうした負担を強いられた。つまり、権力の行使で、市場機能の否定だ。

預金者から余資を集め、必要とする所に貸し出して、手数料を金利として受け取るという、銀行本来のビジネスが、マイナス金利政策で成り立たなくなった。ドイツ銀行は、他の経営判断のミスも大きいが、本業でビジネスを継続できる見通しが立たない。他の銀行も同様で、ユーロ圏の銀行ビジネスは大きな転機を迎えている。

では、ユーロ圏はどうして市場経済を否定するのだろうか? 民間の自由な行動に任せることが、経済成長につながるという市場経済は、欧州統合へ向けての規制強化の流れとは相容れないからだ。ユーロ圏の経済モデルは、社会経済(socio-economy)モデルと呼ばれている。つまり、社会主義的な国家主導の経済が、市場経済より機能するとの考え方だ。とはいえ、大きな政府が市場経済より機能している実例は皆無に近い。

ecb量的緩和を延長

日銀による未曾有の量的緩和、マイナス金利政策、直近のイールドカーブ・コントロールもまた、大きな権力による市場機能の否定だ。実際、MMFなどの短期金融商品は消滅し、長期金利の指標となる10年国債ですら、取引が成立しない日が出てきた。

消費増税により国民から資金を吸い上げ、法人減税、軽減税率、公共投資など、政府の裁量によって資金を配分することは、大きな政府を意味し、市場経済の否定となる。

ここでも、消費税を導入した翌年の1990年が日本の税収のピークであったり、5%に引き上げた1997年が名目GDPのピークであったりと、日本経済は縮小し、財政赤字は拡大する一方で、大きな政府が市場経済より機能している実例には、なり得ていない。

イールドカーブコントロール

欧州中銀が年内で量的緩和を終了する可能性はゼロではないが、日銀が緩和的政策を終えられる見通しは立たない。マイナス金利政策による銀行ビジネスへの悪影響は、日銀、金融庁自身が明言しているところで、それよりもインフレ目標の方が優先されるというスタンスだ。金融業への圧迫で失業者が増え、所得も伸びないなかでのインフレは、スタグフレーションと呼ぶ。これは経済政策が最も恐れる事態なのだが、黒田総裁の発言はもはや首尾一貫せず迷走気味で、当事者意識を失っているように思える。

これらの悪影響がいつ、どこに、どのような形で出てくるかは、恐らく誰にも分からない。少なくとも、楽観していてよい根拠は見当たらない。

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ここで、不思議に思われるのが、日米欧、中国などが、過去の水準の数倍にも及ぶ資金を供給していながら、どうして世界はデフレ環境なのかと言うことだ。

今週、スイスのダボスで、世界経済フォーラムが開かれる。今年の世界最大リスクの主題は「ポピュリズム(大衆迎合主義)」だと言われているが、過去数年間は「格差問題」だった。

私は機能していない「大きな政府」に対する国民の反発を、「大衆迎合」と貶めることこそ、「大きな政府」の弊害の1つだと思っている。市場経済は大衆迎合そのもので、民間のエネルギーを否定するのが、社会経済モデルだからだ。私が見る世界最大リスクは「大きな政府」で、それらの政府がつくり上げた「格差の拡大」だ。

各国政府が恣意的な資金配分を行っているために、資金が富裕層1%に集中している。英オックスハムの報告では、2016年には富裕層1%の資産額が、残り99%の資産額を上回った。1%の多くは供給サイドに属しているので、供給過剰となる一方で、需要の主役である99%に資金が流れないでいるのだ。

デフレ

富裕層500人に絞っての総資産は、2016年末時点で4.43兆ドルと、日本の名目GDPとほぼ同じ規模となっている。彼らの少なくとも1部が、その巨額の資金を用いて、国際機関や各国政府、メディアへの影響力を発揮していることは、想像に難くない。

ますますリッチ

オックスハムの報告では、2015年の時点で、世界の下位50%、約37億人の資産総額を、富裕層のトップ62人だけで上回った。

では、格差拡大の何が問題なのだろうか? それで世界経済が順調に成長していけるならば、それはそれで、支持するという人がいてもいい。

格差

世界のトップ62人が、下位37億人に匹敵するだけの投資や消費を行えば、世界経済における貢献度は等しいと考えてみる。

では、62人に毎日1台の自動車を購入して貰おう。年間で2万2630台が売れる。車が売れると、関連産業も潤い、雇用も増える。燃料も売れる。道路の整備も必要になる。しかし、年間2万2630台で、どれほどの効果が見込めるだろうか?

一方、下位37億人が20年に1台買うだけで、年間1億8500万台になる。関連産業も含めた雇用増、従業員による消費増、サービス業への波及などを鑑みれば、経済成長が爆発的に伸びるのは疑いがない。62人の資産を仮に半減させ、下位37億人に分配するだけで、デフレ環境などすぐにでも消滅する。

雇用、所得が増えれば、税収も増える。社会保障費が減少し、財政赤字は急減する。どこから見ても、いいことずくめの政策なのだが、トップ62人に比べて、他の大衆73億人はいかにも無力なのだ。

2017年のオックスハムの報告では、トップ8人で4260億ドル所有と、下位半分の資産を上回った。この中には貧困層への支援や、チャリティー活動で有名な人も何人かいる。それでも、大きく資産を増やしているのだから、世界最大級の集金マシーンを所有していることになる。どこからその資金を吸い上げているかと言えば、世界中の人々から、その多くは下位半分の人たちからだ。

資産格差

日銀の黒田総裁は、日本のデフレは国民のマインドが冷えているからで、日銀の金融政策は「マインドに訴えかける」ものだとした。事実、イールドカーブ・コントロールのように、実質的な引き締めに転じても、緩和を続ける、いずれインフレ目標に達すると、国民を鼓舞し続けている。まるで、竹槍でも精神力で米国に勝てるとした、旧日本軍の政策を踏襲しているかのようだ。

次回は、☆2017年の見通しー5:原油生産量

矢口 新

矢口 新

大学卒業後、国内外の大手証券会社にて為替、債券のディーラー、機関投資家セールスを勤めた後、株式会社ディーラーズ・ウェブを創業(2002年5月~2013年5月)。2013年4月まで同社代表取締役社長。