FXコラム

マイナス金利の弊害

【著者】

マイナス金利が個人の生活を直撃し始めた。マイナス金利政策は、金融機関の利益が減るだけで、個人はその恩恵に預かれると言われてきたが、そうでもなさそうだ。

生命保険各社は老後に備える年金保険や子どもや孫の学費に充てる学資保険など保険料を毎月払う商品の保険料を、2017年4月にも引き上げる検討に入った。既に契約している分は据え置き、新規分から適用する。日銀のマイナス金利政策に伴う運用難が主因で、値上げ幅は1~2割になる可能性がある。

マイナス金利、マイナス利回りでは、資金運用ができない。これは生命保険会社の運用能力が劣るのではなく、仕組みがそうなっているためだ。保険という商品を継続するためには、値上げは止むを得ない選択だ。それで新規契約者が減っても、既存の契約者の資産を守るためには仕方がない。

我々の年金運用も同じ状況に置かれている。例えば、運用商品の主力である日本国債の利回りは、リスクが低い安全資産とされる短期債から、10年債までがマイナス利回りだ。2年国債は-0.27%、10年国債は-0.14%なので、仮に2年国債に投資すると、1億円で毎年27万円の損失、10年国債だと毎年14万円の損失が出る。安定的に損失が出るものへの投資を、安全だと言いくるめることには、無理がある。国債での損失を穴埋めするといったハンディを背負っての株式投資、外貨投資は極めて危険なのだ。
これでは、年金の給付額を下げるか、保険金の支払いを上げるしかない。

参照図:
日本国債利回り曲線

誰が得するかは、国債を発行している財務省であることは明らかだ。借金が収益になるという、錬金術を使っている。また、財務省証券を日銀が買い上げることで、国庫の負債を日銀に付け替えている。どちらも、日本国民の財産であることを鑑みれば、財務省益に日銀が負けているに過ぎない。

それでも、住宅ローン金利などの低下により、個人にもメリットがあるというのが、マイナス金利政策の触れ込みだ。ところが、マイナス金利政策を先行して採り入れた欧州では、そうでもなくなってきている。

ECBが4月19日発表した調査結果で、ユーロ圏の銀行が住宅ローンの審査基準を厳格化していることが分かった。第2四半期もこの傾向は続く見通しだという。内部基準を厳しくしていると答えた銀行は4%純増した。融資に対し、より詳しい審査を求めるEUの指令が背景とみられる。銀行のリスク許容度がやや低下していることも一因。国別で見ると、基準を厳しくしたのはオランダとドイツで、イタリアとスペインでは緩和された。

欧州では、マイナスの住宅ローンも出てきている。従来の住宅ローンならば、借り手は元金返済に利息を乗せて支払うのだが、元金返済から利息を引いて支払っている。しかし、これでは銀行経営は成り立たない。そこで、銀行にとっての住宅ローンビジネスは体力勝負となり、中小には撤退するところが出始めている。

これで分かるのは、個人にメリットがあるのは、返済に全く不安のない一部の優良顧客だけで、しかも、一時的だ。住宅ローンビジネスの寡占化が進んだ後に、金利が上昇したなら、個人は狭まれた選択肢の中で、高金利の支払いを余儀なくされる。

日本が同じような状態になるのは時間の問題だと見ていいだろう。マイナス金利政策は、借金する人が金利を支払い、貸す人が金利を受け取るという、古来からの人間活動に沿った金融システムの否定だ。日銀を含む、銀行を中心とした金融システムを危機に陥れてまで、財務省益を守るというのは、いかにも財務省から日銀に送られた総裁がしそうなことだと、つぶやく声が聞こえてきそうだ。

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矢口 新

矢口 新

大学卒業後、国内外の大手証券会社にて為替、債券のディーラー、機関投資家セールスを勤めた後、株式会社ディーラーズ・ウェブを創業(2002年5月~2013年5月)。2013年4月まで同社代表取締役社長。