米利上げと、中国株、ギリシャ情勢のリスク -下-

アトランタ連銀のデニス・ロックハート総裁は8月4日、ウォール・ストリート・ジャーナル紙とのインタービューで、米経済は9年以上続けた超低金利を初めて引き上げる準備ができたとし、景気指標の著しい悪化がない限り、同氏が9月の利上げに反対票を投じることはないと述べた。同氏はFOMCで政策決定の投票権を持ち、タカ派でもハト派でもない中立派とみられていた。
参照:Atlanta Fed’s Lockhart: Fed Is ‘Close’ to Being Ready to Raise Short-Term Rates
http://www.wsj.com/articles/atlanta-feds-lockhart-fed-is-close-to-being-ready-to-raise-short-term-rates-1438709252

中立派の同氏が利上げ支持を表明したことで、9月利上げの可能性が格段に高まることとなった。そこで気になるのが、中国やギリシャといった海外情勢だ。

中国は昨年来、息切れし始めた実体経済のテコ入れにか、あるいは実体経済や不動産市場に比べて効果が出易いと見なしたのか、諸規制を緩和して株高政策を採ってきた。2014年末近くから、個人を中心に信用で株式を買い上げる一方で、企業の経営陣や主要株主といったインサイダーたちは2015年に入ってから、2013年、14年の8倍にもなる月間800億元ペースで自社の株式を売り続けてきた。

習近平政権が進めている政府の役人に対する収賄取締りの強化は、そのまま贈賄企業の取締りにも繋がるので、危機感を強めたインサイダーたちが株式の現金化を図ることには納得がいく。ここで中国の主要企業はすべて政府役人と深いつながりがあったことを鑑みると、中国株の乱高下は資本主義国での乱高下とは性質を異にすることに気付くはずだ。そこで現在の中国株市場の主な買い手は政府だけだということにも、真実味が出てくる。

図1

一方、米株は年初来ほぼ横這っており、中国株の乱高下とは無縁だといっていい。本来、中国株の動向は中国国内の特殊事情を強く反映しており、いつ正常化するかの時期は不明だ。また、他国に与える影響も限定的だ。つまり、米連銀が中国株を気にして利上げ時期を遅らせれば、いつまで遅らせればいいのかの判断が困難になる。また、深い関連性がないものに、政策が振り回される理由もない。

ギリシャ情勢も同様だ。ギリシャの2014年の名目GDPは2380億ドルと、同年に17兆4190億ドルある米国の1.3%ほどでしかない。また、ギリシャ問題の本質は固有の経済政策を持たないところにあるので、いつ解決されるかもわからない。ここでも、米連銀がギリシャ情勢を気にして利上げ時期を遅らせれば、いつまで遅らせればいいのかの判断が困難になる。また、大きな影響がないものに、政策が振り回される理由もないのだ。

米連銀はリーマンショック後の2008年12月からほぼゼロ金利政策を続けている。このことの弊害は、これ以上の利下げは事実上不可能で、緩和政策の必要性が出た時には、量的緩和の再開しかないということだ。恐いのは中国経済の失速だ。現代、総資産でみる世界の5大銀行の4つを中国の銀行が占めている。残る1つは英国の銀行だが、香港と関係が深いHSBC(香港上海銀行)だ。中国経済の失速は、世界経済にリーマンショック以上のインパクト与える恐れがあるのだ。しかし、今後、中国経済の悪化が米国経済に大きな影響を及ぼし始めた時や、ギリシャ問題が他のユーロ諸国に伝染して米国をも脅かすようになった時には、今のままでは利下げができない。

それらを勘案すると、私は米連銀による9月の利上げ開始は、相当現実味を増してきたと見なしている。

図2

米利上げと、中国株、ギリシャ情勢のリスク 上と中はこちら↓
・米利上げと、中国株、ギリシャ情勢のリスク -上-
・米利上げと、中国株、ギリシャ情勢のリスク -中-

【みんかぶマガジン】矢口氏のコラム
最新記事:16/12/5「イタリア国民投票の焦点
矢口 新

矢口 新

大学卒業後、国内外の大手証券会社にて為替、債券のディーラー、機関投資家セールスを勤めた後、株式会社ディーラーズ・ウェブを創業(2002年5月~2013年5月)。2013年4月まで同社代表取締役社長。