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参議院財政金融委員会:日銀総裁、副総裁の発言から

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28日の参議院財政金融委員会における日銀半期報告で、黒田日銀総裁は、来年10月に予定されている10%への消費税再増税が先送りされ、「財政の信認が失われると、対応が極めて困難になる」との従来の見解をあらためて表明し、財政再建の重要性を指摘した。

また、日銀による大量の国債買い入れでも「国債市場の流動性が低下していることはない」としたが、「国債市場の動向を注意深く点検し、市場安定に努める」と指摘。こうした国債買い入れは「財政ファイナンスを意図したものではない」とも語った。マイナス金利の発生自体は日銀による「強力な金融緩和の表れ」とし、「特に問題ではない。金利水準全体の押し下げの一現象」との見解を示した。

参照:消費増税先送りなら対応困難、マイナス金利は政策効果=日銀総裁
http://jp.reuters.com/article/mostViewedNews/idJPKBN0IH08220141028

日本経済新聞には「消費増税『予定通りに』78% 市場関係者100人調査」 という見出しがあった。28日朝のテレビ東京の相場情報番組のゲスト解説者「債券の専門家」も、29日朝のゲスト解説者「為替の専門家」も、消費税は上げるべきだとしていた。まるで、増税キャンペーンだ。

参照:増税派と減税派の違い
http://money.minkabu.jp/47258

29日のゲスト解説者は、財政が税収と国債などの借金から賄われているとの図表を提示し、税収を増やすためには増税する必要がある。「増税せねば株価が下がる」と、大胆な発言をしていた。

ところが、欧米の実例では、増税で確実に起きるのは景気減速で、多くの場合は、増税分の税収増より、景気後退による税収減が上回る。増税すれば、かえって税収が減っているのだ。また、景気後退は即座の社会保障費負担を増やすだけでなく、貧困、失業者増による中期的な社会不安、若年層の就業経験不足による長期的な国力低下の懸念を生む。結果的に、財政の基盤すら損ねてしまう。

危機と呼ばれたユーロ周辺国で、例外的に景気と財政を立て直したのはアイルランドだ。アイルランドは法人税率を極端に引き下げ、マルチナショナルな企業を誘致することで、税収増を達成した。減税が税収増を生むのだ。

景気回復で財政赤字を減らした米国の例は先に述べた。

参照:増税か、経済成長による税収増か?
https://fx.minkabu.jp/hikaku/fxbeginner/united-states-budget-deficit/

「増税せねば株価が下がる」というのは初耳だ。とはいえ、増税しても株価が下がるとは言えない。再増税でほぼ確実なのは、景気後退だが、景気後退でも株価が上がるケースがあるからだ。量的緩和によるカネ余り、金融相場ではそうなる。また、日本株の場合には、米株高や円安でも株価が上がる可能性が高い。景気後退で雇用不安になり、所得が減っても、「量的緩和、米株高、円安」の組み合わせでは、株価が上がる可能性が高いのだ。この場合には、再増税しても株高だが、増税しなければ、景気回復、企業収益増、所得増で、もっと上がる可能性が高い。

また、28日の参議院財政金融委員会では、岩田副総裁は、昨春の就任前の国会における所信表明で、2年で2%の物価目標が達成できない場合は辞職する考えを表明したことに関し、「(達成できなければ)自動的に辞めると理解されてしまったことを、今は深く反省している」と語り、「まずは説明責任を果たすことが先決というのが真意だった」と釈明。「最高の責任の取り方は辞職という考えは変わらない」とも語った。

そのうえで、2年程度で2%の物価目標の達成について、人間の行動に働きかけるのが金融政策とし、「電車の時刻表のように、きちんとはできない。不確実性が大きい」と指摘。2年程度での実現を目指して、最大の努力を行うという日銀の行動が大事だ、と語った。

参照:就任前の「目標未達なら辞職」発言、深く反省=岩田日銀副総裁
http://jp.reuters.com/article/idJPKBN0IH08G20141028

私は同氏の辞任云々には関心がないが、発言で気になる点が2点ある。「人間の行動に働きかけるのが金融政策」と、「最大の努力」だ。

景気でも、相場でも、「気」や「意欲」でどうにかなると考える人が多い。しかし、欲望だけで消費すると、後に来るのは借金地獄だというのは、誰でも知っている常識だ。逆に、余るほどの資金があると、欲しくもないものでも買ってしまうのが人情だ。「気」や「意欲」は、「実体」や「事情」に支えられてこそ、健全な経済成長、株高に繋がるのだ。

私にとって関心があるのは、日銀は果たして目標達成のために「最大の努力」をしているのかということだ。「実弾」を持つ日銀こそが、「気」や「意欲」で目標が達成できる。やり方は簡単だ。2%の物価目標が達成されるまで、追加緩和を行うことだ。ヤル気さえあれば、当局ならばこそ、できることなのだ。

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矢口 新

矢口 新

大学卒業後、国内外の大手証券会社にて為替、債券のディーラー、機関投資家セールスを勤めた後、株式会社ディーラーズ・ウェブを創業(2002年5月~2013年5月)。2013年4月まで同社代表取締役社長。