FXコラム

買いたい弱気

【著者】

先日、「円安が進んだので、生保が外債投資の縮小を考えている」との報道を目にした。

4月下旬になされた報道では、「生保主要9社の2015年度の外債への新規投資額の合計は4兆円に迫る水準」になる計画だとあった。4月中のドル円レートは119円台後半を挟んだ動きだった。そこから1カ月、4円ほど円安に進んだので、もう外債投資は止めるというのだろうか?

以前の私は、生保全社のファンドマネージャーの方々や、その上司の運用部門責任者の方々と交流があったが、今は不義理を重ねていて、直接に確かめるのは憚れる。そこで、私が知る範囲での推測になるが、縮小報道は、限りなく誤報に近いと判断する。

まず、年度の計画を1カ月ほどで大きく修正することは考えにくい。もっとも、計画作成の段階では予想もできなかった新事態が突発した場合は例外だ。その場合は、いきなり縮小というよりは、しばらく様子見となるかと思う。

生保は保険金などの形で顧客から集めた預かり資産を、何らかの形で運用している。運用商品は大別すると、債券、株式、ローンと、不動産など代替投資物件だ。運用資産のうち、キャッシュは運用商品とは見なさない。このうち、値上がりしたから投資を止めるという運用方針ならば、今年度はローン以外の投資物件は何もないことになる。ローンは銀行との競争になるが、銀行は預金増以上にはローンが伸ばせない状態が続いているので、銀行より低利で貸し出すか、銀行が貸さないところに貸し出すことでしか、伸ばす余地は少ないといえる。

現状は、日本生命(2015年3月期)を例にとれば、国内債券39.0%、外国証券25.0%、株式12.9%、ローン15.4%、不動産3.1%で運用している。これは少なくともここ2年ほどはほとんど変わっていない。

参照ページ:http://www.nissay.co.jp/kaisha/annai/gyoseki/pdf/2014/disc2014_P162_175.pdf

第一生命(2015年3月期)では、国内債券47.4%、外国証券17.8%、株式10.5%、ローン8.5%で、不動産は3.4%だ。

参照ページ:http://www.dai-ichi-life.co.jp/company/results/kessan/2014/pdf/index_002.pdf

かんぽ生命(2015年3月期)になると、国内債券が77%、外国証券が2.4%、ローンが11.9%などとなっている。

参照ページ:http://www.jp-life.japanpost.jp/aboutus/financial/abt_fnc_unyo.html

ここで、生保が外債投資を拡大しようとする背景を考えてみよう。どこも国内債の比率が大きいが、2%が目標のインフレ政策時に、満期10年ですら利回り0.30%台の国債での運用では、実質損が膨らむばかりだ。とはいえ、国内債投資をゼロにするわけにもいかず、他商品の運用益で、国内債投資の運用損を補いたいとするのは合理的な判断だ。ここに、世界有数の信用力と、世界一の流動性を兼ね備える米国債が、10年債で2%台の利回りを提供していてくれるのは有難いとなる。

とはいえ、外債投資は為替リスクを伴う。外債投資で困るのは円高で、投資した外貨の価値が下がることだ。このことは円安になれば、利益が増えることを意味している。

ドル円レートは、日米金利差と相関性が高い。実際、生保の米国債投資の動機は、米国債が日本国債よりもはるかに高い利回りを提供しているからだ。その金利差が、今年度中にも行われる米連銀の利上げにより、拡大する見通しとなっている。そうなると、円安が進行する可能性が高い。

この5月に起きたことは、私などが前々から指摘している通りに、また、生保が外債投資を拡大する理由となった通りに、物事が進行しているだけだ。スピードも、たまたま昨年12月から5月の半ばまでが横這っていただけで、早過ぎることも、速過ぎることもない値動きだ。この円安局面は、計画作成の段階では予想もできなかった新事態が突発したからだとは、とても言えない。

ドル円2年

生保に限らず、以前、長期投資家の方々から、「長期保有でゆっくりと買いを積み上げる予定がある時は、安く買えないことを恐れて、ネガティブなことばかりを言うものだ」と聞いた。
それを彼らは「買いたい弱気」と呼んでいた。

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矢口 新

矢口 新

大学卒業後、国内外の大手証券会社にて為替、債券のディーラー、機関投資家セールスを勤めた後、株式会社ディーラーズ・ウェブを創業(2002年5月~2013年5月)。2013年4月まで同社代表取締役社長。