他人任せの? 大きな政府! ーその2ー

【著者】

日本政府は増税と減税の組み合わせによる大きな政府を志向している。とはいえ、経済再生のためのリーダーシップを、どこで発揮しているのかが明確ではない。

民間から資金を吸い上げ、民間に口出しするだけでは、景気は更に悪化する。政府は他人任せではなく、自分にできることで、経済再生を図るべきだ。経済政策における政府・政治家の専権事項とは税制だ。経済の過熱を抑えたいならば増税を、刺激したいならば減税だ。なかでも消費税が最も効果的なのだ。

このことを、以下のサブタイトルの順にご説明する。

1、大きな政府による上からの政治
2、大きな裁量権をどこに使う?
(参照:他人任せの? 大きな政府! ーその1ー
https://fx.minkabu.jp/hikaku/fxbeginner/big-government-leave-others1/

3、法人税率を下げて得られたもの。消費税率を上げて失くしたもの
4、消費税は企業の売り上げを侵食する
5、日本の政治家と官僚は、あなたの生活を任せるに値するか?
6、景気回復には消費減税を!

3、法人税率を下げて得られたもの。消費税率を上げて失くしたもの

法人税率(国税)は平成にはいってから一貫して下げ続けている。おかげで、法人税収は減っている。平成元年度には企業の税引前当期純利益38.9兆円に対して、法人税収は19兆円あった。一方、平成18年度には利益が49兆円に増えたが、税収は逆に14.9兆円に減少した。平成21年度などは利益が22.6兆円に対して、税収は6.4兆円だった。

参照図3:法人税率と税収
法人税について

法人税率が下げられたおかげで、利益が増えても納税額が減り、企業の取り分が増えている。しかし、所得増が見られず、先の資料の個人消費が横ばいだということは、企業は従業員に利益を還元しなくなっていることを表している。そのために政府にとっては法人税収の減少につながっただけでなく、個人からの所得税収の減少にもつながっている。ちなみに図の矢印は消費税率が5%に引き上げられた年だ。この年に名目GDPと個人消費がピークをつけ、所得税収はバブル期以降の戻りのピークをつけた。

参照図4:税収の内訳
税収推移

つまり、税収面では法人税率を下げて得られたものはなく、消費税率を上げて失くしたものは膨大だったことになる。

法人税率の引き下げは、前回の財務省の資料で諸外国と比べてまだ高いとアピールしているように、海外からの直接投資を呼び込むために行われている。では、法人税率の引き下げにより、世界からみた日本のビジネス環境は改善したのだろうか?

先週、世界銀行は世界189カ国・地域のビジネスのしやすさを順位付けした、来年2016年のビジネス環境ランキングを発表した。日本は34位と昨年より順位を4つ下げた。安倍政権が掲げている「2020年までに先進国で3位」との目標からは、5年を切って更に遠退いた。ご覧のように、近隣のアジア諸国と比較しても、日本のビジネス環境は大きく劣っている。

ビジネス環境ランキング、2016年の総合順位
順位 国・地域 昨年比
1 シンガポール →
2 ニュージーランド→
3 デンマーク →
4 韓  国 →
5 香  港 →
6 英  国 →
7 米  国 →
8 スウェーデン ↑
9 ノルウェー ↓
10 フィンランド →

34 日  本 ↓

法人税率引き下げのための財源を消費税率引き上げに求め、結果としての所得税収急減による一般会計税収全体の落ち込みという犠牲を払って得たものが、ビジネス環境の更なる悪化? 何のための法人税率引き下げだったのか? 

ビジネス環境は、もちろん法人税率だけではない。インフラや労働力の量や質、市場、その他さまざまな要因がある。
確かに、法人税率の引き下げはプラス要因だが、他国が同じように引き下げれば、消耗戦となってしまう。単なる価格競争が陥る罠だ。

一方で、法人税率引き下げにより、利益が増えても納税額が減少し、企業の内部留保が350兆円と、史上最大規模に膨れ上がっている。
では、安倍首相は企業から設備投資や賃上げを引き出せるのだろうか?

4、消費税は企業の売り上げを侵食する

損益計算書の図解を用いて、消費税が企業の売り上げを侵食する様を見てみよう。前回の資料にあるように、日本の名目GDPと個人消費は消費税率が5%に引き上げられた1997年度から伸びていない。個人消費、すなわち、企業の国内個人向け売り上げは300兆円に届かないところにある。切りがいいので300兆円だとして、消費税支払い後の企業の実質売り上げは、この年以降5%減の285兆円に減少した。企業はここから仕入れ原価を払い、人件費や一般管理費を支払い、利息などを支払い、一時的なコストを支払い、法人税を支払う。

参照図5:損益計算書
損益計算書

2014年度以降は、個人消費(企業の国内個人向け売り上げ)が伸びずに、消費税率が5%から8%に上げられたので、企業の実質売り上げは276兆円に減少した。それでも企業業績が伸びているのは、円安効果、インバウンド消費効果だ。どちらも消費税とは関係がないからだ。

このままでは、企業の国内個人向け売り上げは2017年度以降、270兆円に減少する。この減少は、仕入れ原価の引き下げ圧力、人件費や一般管理費の引き下げ圧力、利息などの引き下げ圧力に直結する。円安効果、インバウンド消費効果を計算に入れなければ、どこに設備投資や賃上げを行う余力があるだろうか?

企業の内部留保が350兆円と、史上最大規模に膨れ上がっているが、国内での個人消費が伸びないまま、2017年4月以降の売上は更に2%縮小する。そこで、企業は豊富な現金を海外企業の買収、あるいは自社株買いなどに当てている。これでは名目GDPの拡大は望み薄だ。

消費増税は市場縮小という、パイそのものが小さくなることを意味するので、デフレスパイラルを引き起こす可能性が高い。そもそも、これまでのデフレの元凶も1997年に5%に引き上げられた消費増税であった可能性がある。何しろ、その年に名目GDPと個人消費がピークをうち、国内市場が縮小を始めたのだから。

参照図4の税収の内訳に見られるように、消費税収と所得税収には逆相関関係がある。ところが、消費税収の伸びに比べ、所得税収の減少幅が大きい。消費税は企業の売り上げと、個人の可処分所得とを同時に侵食するので、その引き上げは所得税収を大きく減らすのだ。そのために、税収そのものが減少することになっているのだ。
次回につづく

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矢口 新

独自テクニカルで『相場のタイミングを捉える』 矢口 新

大学卒業後、国内外の大手証券会社にて為替、債券のディーラー、機関投資家セールスを勤めた後、株式会社ディーラーズ・ウェブを創業(2002年5月~2013年5月)。2013年4月まで同社代表取締役社長。