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他人任せの? 大きな政府! ーその1ー

【著者】

日本政府は増税と減税の組み合わせによる大きな政府を志向している。とはいえ、経済再生のためのリーダーシップを、どこで発揮しているのかが明確ではない。

民間から資金を吸い上げ、民間に口出しするだけでは、景気は更に悪化する。政府は他人任せではなく、自分にできることで、経済再生を図るべきだ。経済政策における政府・政治家の専権事項とは税制だ。経済の過熱を抑えたいならば増税を、刺激したいならば減税だ。なかでも消費税が最も効果的なのだ。

このことを、以下のサブタイトルの順にご説明する。

1、大きな政府による上からの政治
2、大きな裁量権をどこに使う?
3、法人税率を下げて得られたもの。消費税率を上げて失くしたもの
4、消費税は企業の売り上げを侵食する
5、日本の政治家と官僚は、あなたの生活を任せるに値するか?
6、景気回復には消費減税を!

1、大きな政府による上からの政治

安倍政権は2017年4月の消費税率引き上げ決定を明言後、消費税の軽減税率や法人税の実効税率の引き下げを明言している。軽減税率は政府・与党で調整中だが、法人税の実効税率については、早期に20%台にしたいとし、来年度の税制改正で0.78%以上とされている引き下げ幅を、できるかぎり拡大する意向を示した。

法人税率は現在国税が22.81%、地方税が8.52%となっている。これは米国やフランスよりも既に低いが、シンガポールの2倍近くもあり、29.66%の全ドイツ平均並みには引き下げたい意向のようだ。

参照図1:法人税率の国際比較(出所:財務省)
税収内訳

ここで、一般の人にとって不可解なのは、どうして増税と減税とを組み合わせるのかということだ。減税するならば、そもそも増税の必要などあるのだろうか?

悪く受け取るならば、増税導入にも軽減税率導入にも多大なコストがかかる。また、得する業界と損する業界とが発生するため、不公平ながら、あるいは不公平であるために、一部の人たちにとっては大きなビジネスチャンスになるということだ。それは政府・官庁の権限が増すことを意味している。

良く受け取るならば、増税という形で庶民の身銭を多く政府・官庁に委ねれば、日本の将来をより良く考えてくれるということだ。収入増という財源があってこそ、必要なところには、減税や公共投資という形で還元できるのだ。もっともこの場合には、政府・官庁が能力的にもモラル的にも民間以上に優秀であることが最低条件となる。同等以下であれば、かけた多大なコストすら回収できないで、無駄遣いに終わる。

実は、増税と減税との組み合わせは、それほど矛盾したことではない。大きな政府という1つの目的に向かってのことだ。大きな政府とは、大きな財政資金を扱うことで、自らの裁量権を拡大し、「上からの」政治を目指すものだ。

2、大きな裁量権をどこに使う?

安倍首相は名目GDPを2020年頃までに600兆円にしたいとしている。そのうち個人消費を7割に引き上げたいとするので、420兆円が目標だ。いわゆる1億総活躍社会の実現だ。

名目GDPは現在500兆円に届かず、前回消費税率を5%に引き上げた1997年度をピークに伸びていない。個人消費もその頃から300兆円以下で横ばっている。その現状を鑑みれば、どちらも、ものすごい目標だ。

参照図2:名目GDPと、個人消費
GDPの推移

一方で甘利経済財政・再生相は先週、7~9月期の実質成長率が2期連続のマイナスになった場合でも「補正予算で景気対策に絞って公共事業などをやることは現時点では想定していない」との見解を改めて示した。16日朝発表の7~9月期の実質GDP速報値が市場予測通りに前期比0.1%減ならば、4~6月期の0.3%減に続き2期連続のマイナス成長となり、公式にリセッション入りする。(7~9月期は前期比0.2%減と発表、4~6月期は0.2%減に修正され、公式にリセッション入りした。)

マイナス成長でも手を打たないという姿勢と、5年以内に経済規模を20%増以上に成長させたいという「目標」とには整合性はない。そこで経済界に対して、「設備投資と賃上げに積極的に取り組んでもらう必要がある」と要望している。賃上げについては年3%程度の上昇としている。

ここでも、賃金はここ10数年間実質ゼロ成長なので、大変な目標だ。目標はすごいが、実情は設備投資や賃上げを企業にお願いするだけなので、達成できないとすれば、企業の協力が足りなかったということになる。

また、安倍晋三首相は「新3本の矢」の政策に、2014年には1.42だった「合計特殊出生率」に対し、「希望出生率1.8」を掲げた。合計特殊出生率とは1人の女性が生涯に産むと見込まれる子どもの数で、2.07が人口を維持できる水準とされている。日本は1975年に2を下回り、以降は長期低落傾向にある。

これは昨年から今年にかけての「地方創生」の文脈で、地方自治体が次々と数値目標を発表しているようだ。「まず、国は少子化対策を自分ではやらないという意思表示です。石破茂地方創生相が6月5日に公表した『地方創生における少子化対策の強化について』の中で、〈出生率の向上には、『これさえすれば』というような『決定打』もなければ、これまで誰も気付かなかったような『奇策』もない〉と認めて、『地域アプローチ』を提唱しています。人口減少の問題に国として取り組む能力がないのか、やる気がないのかは分かりませんが、『地方創生』という政策課題にすることで、自治体や地域社会に責任転嫁したということです」

参照:希望出生率、「人口減を地方に責任転嫁」 金井利之教授

http://www.asahi.com/articles/ASHC300ZWHC2UTFL00N.html?iref=comtop_list_nat_n01

ここでも出生率を1.42から1.8へ短期間で引き上げるという大変な目標を立てているが、達成できなければ、地方の取り組み不足、あるいは国民の理解不足という逃げ道がある。

また、日本政府は、近年深刻な問題となっている「子供の貧困」対策として、「子供の未来応援基金」というものを10月1日に設置した。そして、10月19日に「子供の未来応援国民運動会議」というイベントを開催して寄付を呼びかけた。大きな政府がイベントを企画して、「寄付」を呼びかける? 必要資金が達成できないとすれば、寄付文化が根付いていないためだとするのだろうか?

もっとも、1億総活躍社会とは、子供も後期高齢者も、総動員で働けということかもしれない。そうしてやっと名目GDPが600兆円に届くという意味だろうか?
次回につづく

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矢口 新

矢口 新

大学卒業後、国内外の大手証券会社にて為替、債券のディーラー、機関投資家セールスを勤めた後、株式会社ディーラーズ・ウェブを創業(2002年5月~2013年5月)。2013年4月まで同社代表取締役社長。