他人任せの? 大きな政府! ーその3ー

【著者】

日本政府は増税と減税の組み合わせによる大きな政府を志向している。とはいえ、経済再生のためのリーダーシップを、どこで発揮しているのかが明確ではない。

民間から資金を吸い上げ、民間に口出しするだけでは、景気は更に悪化する。政府は他人任せではなく、自分にできることで、経済再生を図るべきだ。経済政策における政府・政治家の専権事項とは税制だ。経済の過熱を抑えたいならば増税を、刺激したいならば減税だ。なかでも消費税が最も効果的なのだ。

このことを、以下のサブタイトルの順にご説明する。

1、大きな政府による上からの政治
2、大きな裁量権をどこに使う?
(参照:他人任せの? 大きな政府! ーその1ー

3、法人税率を下げて得られたもの。消費税率を上げて失くしたもの
4、消費税は企業の売り上げを侵食する
(参照:他人任せの? 大きな政府! ーその2ー

5、日本の政治家と官僚は、あなたの生活を任せるに値するか?
6、景気回復には消費減税を!

5、日本の政治家と官僚は、あなたの生活を任せるに値するか?

消費税収と所得税収には逆相関関係がある。消費税は企業の売り上げと、個人の可処分所得とを同時に侵食するので、その引き上げは所得税収を大きく減らすのだ。そのために、税収そのものが減少することになる。そこに法人減税が加わり、景気がよくても税収が増えなくなった。

参照図4:税収の内訳
税収の内訳

一般会計税収はバブル期ピークの60.1兆円どころか、消費税率が5%に引き上げられた1997年度の53.9兆円を長らく超えられないで来た。また、その年が名目GDPと個人消費のピークでもあった。その間にも歳出は増え続け、差額を国債や借入金、政府短期証券で補ってきたために、2015年6月末時点で国の借金の残高が1057兆円を超えたのだ。短期証券は短期の借入だが、日本の財政状況を見る限り、短期返済の目途はなく、実質超長期に亘って借り換えし続ける長期債務に等しい。

参照図6:日本の財政状況
日本の財政状況

今年度に至ってようやく一般会計税収は54.5兆円となる見込みとなったが、これは消費増税のおかげだろうか? 私は貿易赤字と量的緩和による円安によるものと見ている。消費税が多少の足しにはなったが、消費税収と所得税収との逆相関関係があることを鑑みれば、所得税収増の足を引っ張った可能性が高い。私は50%を超える円安、異次元緩和、企業収益最高更新時に、消費税率が5%のままであったなら、一般会計税収が60兆円に達した可能性もあるのではないかと疑っている。

日本政府は、増税という形で庶民の身銭を多く政府・官庁に委ねれば、日本の将来はより良くなると考えている。だからこそ、増税と減税とを組み合わせ、財源があってこそ、必要なところには、減税や公共投資という形で還元できると主張する。それが大きな政府を志向する理由だ。

しかし、それには政治家や官僚が能力的にもモラル的にも民間以上に優秀であることが最低条件となる。同等以下であれば、かけた多大なコストすら回収できず、無駄遣いとなるのだ。

世界には日本よりも大きな政府、税金が高い国々がある。消費税も、日本は低い方だとの解説も目にする。例えば、北欧諸国の税金は押し並べて高い。しかし、一方で社会保障も充実している。

一例として、先週には主要25カ国対象の、2015年「マーサー・メルボルン・グローバル年金指数ランキング」が発表された。

1位:デンマーク、2位:オランダ、3位:オーストラリア、4位:スウェーデン、5位:スイス、6位:フィンランド、7位:カナダ、8位:チリ、9位:イギリス、10位:シンガポール、11位:アイルランド、12位:ドイツ、13位:フランス、14位:アメリカ、15位:ポーランド、16位:南アフリカ、17位:ブラジル、18位:オーストリア、19位 :メキシコ、20位:イタリア、21位:インドネシア、22位:中国、23位:日本、24位:韓国、25位:インドの順だった。

ビジネス環境もダメ、年金などの国民個人への保障もダメ、おまけに国家財政運営もダメで債務だけが膨れ上がっている。

参照図7:債務残高の国際比較
債務残高の国際比較

参照図8:純債務残高の国際比較
純債務残高の国際比較

私は「Japan As No1」と呼ばれた時代があったことを覚えている。
その当時の日本は「経済一流、政治二流」と呼ばれていた。その政府・政治家が財政赤字を続け、国の借金を増やした挙句の改善策(?)が消費増税だ。二流の政治が主導権を発揮した結果、経済も二流となった。

6、景気回復には消費減税を!

安倍首相は名目GDPを2020年頃までに600兆円にしたいとしている。そのうち個人消費を7割に引き上げたいとし、1億総活躍社会を実現させたいとしている。

一方で、地方に少子化対策をお願いし、企業に設備投資や賃上げをお願いし、「子供の貧困」対策に至っては国民に寄付をお願いするなど、政府自身の覚悟が見えない。

また、来年度に予定されている国民経済計算(SNA)の新基準導入で、GDPが20兆円程度上振れる可能性が指摘されている。
参照:GDP600兆円へ隠し玉、新基準で20兆円上積み-「麻薬効果」の声も
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-NXP9B86K50XY01.html

隠れた成長促進剤が用意されているとあるが、会計基準の変更なので、実体は何も変わらない。こういうものを隠し玉だとは考えていないと願いたい。

内憂外患とググルと、「国内の心配事と、外国との間に生じるやっかいな事態」など、語句そのものの説明がいくつか続いた後に、「コラム:内憂外患の日本経済、追加緩和は必要か」という記事が出てくる。ヤフー検索でも同様だ。

日本経済が縮小しているのも、財政赤字が続いているのも、国の債務が膨大なのも、年金などの社会保障が充実していないのも、中国経済の減速も、テロを含む地政学的リスクも、すべて「内憂外患」で、政府・当局者はさぞ大変なことと思う。

とはいえ、外患は基本的にどの国も同じ。日本の外患は軽い方かと思う。
また、内憂は自分で作り出すものだ。少子高齢化などは先進国に共通だ。安定雇用と婚姻との強い関係を鑑みれば、初婚の時期が遅くなり、少子化が進んでいる内憂は、経済政策の失敗の表れでもある。どこもが似たような環境下で国家経営をしているのだから、日本が世界最大の債務国になった言い訳はできない。

日本経済が第3四半期に、アベノミクス下で2度目のリセッション入りしたことを受けて、安倍首相は補正予算を示唆した。日本政府は増税と減税の組み合わせによる大きな政府を志向している。とはいえ、経済再生のためのリーダーシップを、どこで発揮しているのかが明確ではない。

私は政治が悪い、会社が悪い、誰かが悪いと思う時、誰かにお願いするよりも、自分にできることを精一杯やる方が、実りがあると考えている。自分の人生に責任を持てるのは自分だけなので、与えられた環境を嘆くよりも、あるいはささやかに抵抗して無力感を募らせるよりも、その環境下で自分に何ができるかを考え、チャレンジしたいのだ。

安倍首相が本気で日本を再生させ、経済規模を大きくしたいのならば、地方にも企業にも、寄付にも頼らないで、安倍首相自身ができることがある。

民間から資金を吸い上げ、民間に口出しやお願いするだけでは、景気は更に悪化する。政府は他人任せではなく、自分にできることで、経済再生を図るべきだ。経済政策における政府・政治家の専権事項とは税制だ。経済の過熱を抑えたいならば増税を、刺激したいならば減税だ。安倍首相の日本を再生させる覚悟を見せて貰いたい。

上記の資料は、景気拡大には消費減税が最も効果的なのを示している。(終わり)

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矢口 新

独自テクニカルで『相場のタイミングを捉える』 矢口 新

大学卒業後、国内外の大手証券会社にて為替、債券のディーラー、機関投資家セールスを勤めた後、株式会社ディーラーズ・ウェブを創業(2002年5月~2013年5月)。2013年4月まで同社代表取締役社長。