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英国のEU離脱懸念

【著者】

3月22日に起きたベルギー、ブリュッセルでのテロ爆発を受け、英国のEU離脱機運が高まるとの見方から、英ポンドが対ドルで急落した。
また、ブックメーカー、ベットフェアの賭け倍率が示す英国のEU離脱確率は36%と、前日の33%から上昇した。

一方、ICMが18-22日に2000人を対象に実施した世論調査では、EU離脱支持率が43%と、反対の41%を上回っていた。

先週の金融政策決定会合後の記者会見で、英国銀行高官は、欧州連合メンバーからの離脱に関する英国の国民投票が引き起こす不確実性が、投資と経済成長を抑制しかねないと述べた。BOEは政策金利を史上最低水準に据え置いた。

欧州連合(European Union)は、米ソ冷戦体制下での埋没を恐れた欧州が、1950年のシューマン宣言(フランスと西ドイツの石炭・鉄鋼産業を共同管理、欧州の経済と軍事における重要資源の共同管理構想)、1952年の欧州石炭鉄鋼共同体(フランス、西ドイツ、イタリア、オランダ、ベルギー、ルクセンブルク)、1957年の欧州経済共同体(European Economic Community)と、欧州原子力共同体(共にフランス、西ドイツ、イタリア、オランダ、ベルギー、ルクセンブルク)などを経て、1993年のマストリヒト条約の下に発足、2009年のリスボン条約で、今日の形となった。英国の参加は1973年となる。現在の加盟国は、旧ソ連の構成国を加えて28カ国。

他の欧州諸国の連合体には、1955年に発足した西欧同盟があり、英国は上記6カ国と共にその創立メンバーだった。こちらは、上記のリスボン条約で消滅した。

また、英国は1992年のポンド危機で、ユーロの前身だったEMS(European Monetary System)から離脱、今日もユーロには参加していない。

つまり、日英同盟以前の「栄光ある孤立」の昔から、英国は欧州大陸諸国から「距離を置いて」きた。そして、6月23日にはEU離脱の是非を問う国民投票が実施される。離脱すれば、英国は再び欧州で孤立する。

群れることには、メリットだけではなく、デメリットもある。

メリットは、発足時の理念に最もよく表れている。米ソ2大国に挟まれた欧州が、2大国に対抗するために、サイズを大きくする必要があったのだ。米国は合衆国という名の州政府の集合体、ソ連は各ソビエト共和国の連邦国で、通貨は1つ、合衆国内の州間や、連邦内の共和国間の行き来は、「基本的には」自由だった。これは、欧州ではユーロやシェンゲン協定で実現されている。

デメリットは、サブプライムショック後のアイルランドが好例だ。サブプライムショックに至るまでのアイルランドは、欧州のどの国よりも経済的な優等生だった。ところが、サブプライムショック後1年以上も利上げされ、その間にどん底にまで転落、お荷物扱いされることとなった。同時期の英国が利下げで何とか乗り切ったのと好対照だった。つまり、国家が群れると、大事なことはすべてボスの言いなりにならねばならないのだ。

今の欧州連合は、発足時の理念とはかけ離れている。米ソ冷戦は終結し、旧ソ連構成国まで欧州連合に加わっている。

また、経済協力での連携は、必ずしも同盟や連合の形を取る必要がない。どのような形を取ろうが、双方にメリットがあれば経済関係は発展し、デメリットが大きければ同盟国でも当初はお荷物扱いされ、やがては見捨てられる。ギリシャが好例だ。

EUの中核をなすユーロ圏は、単一の通貨、金融政策の機能不全が鮮明になりつつあることに加え、近年の難民問題、シェンゲン協定の維持をめぐる軋轢などで、デメリットが目立ち始めている。

その意味では、英国のEU離脱は、欧州の諸問題から「距離を保つ」という意味で、国内に賛同者が多くても不思議ではない。一方で、スコットランドが、孤立するイングランドと運命を共にするか、群れる欧州大陸と運命を共にするか、もう一度、独立問題が再燃する可能性がある。

私自身は、スコットランドが欧州連合に歩み寄っても、アイルランド以上の待遇で迎えられるとは限らないと見ている。軍事上の意味合いでも、NATOの仮想敵国ロシア包囲網が出来上がっている以上、スコットランドに特別な優位性はない。

英国の離脱で困るのは、むしろ欧州連合内の小国で、ドイツを牽制できる存在を失うことの意味は、今後、明らかになってくると見ている。このことは、将来、英国に経済的に歩み寄る諸国の存在を暗示している。

一方、カナダの一部の大手年金基金の間で、英国の国民投票まで、英国への投資を手控える動きが出てきている。カナダの年金基金は、英国の不動産への投資で過去3年間、世界2位となっている。インフラへの投資も多い。カナダの年金基金の運用総額は7000億カナダドルを超えると言われる。

このことが示しているように、運用者が嫌うのは不透明感なのだ。大胆に予想するならば、今後もポンドは弱含みで推移するかも知れないが、それも6月頃までかも知れない。残留が決まれば、不透明感が遠退き、これまでの買い戻しが期待できる。離脱が決まれば、いったんは売り込まれることがあっても、欧州が抱える問題から逃れることの意味は大きいと、市場も認識するかと思う。

【みんかぶマガジン】矢口氏のコラム
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矢口 新

矢口 新

大学卒業後、国内外の大手証券会社にて為替、債券のディーラー、機関投資家セールスを勤めた後、株式会社ディーラーズ・ウェブを創業(2002年5月~2013年5月)。2013年4月まで同社代表取締役社長。