Q&A:中国はなぜ変動相場制に移行しない?

Q:世界的株価の暴落は,一つの要因ではないと思いますが、中国の株価が影響しているのは間違いないと思われます。中国が、固定相場制から変動相場制に移行できない理由にはどのようなことが、考えられるのでしょうか。ご教授願います。


A:
外国為替の変動相場制の歴史は意外に浅く、1971年のブレトンウッズ体制の崩壊、いわゆるニクソンショックからです。前世紀初めまでは、米ドル英ポンドが世界の基軸通貨として金価格に連動した価値を有していました。日本円が金と連動していた時代もあります。第2次世界大戦後は米ドルだけが兌換通貨と呼ばれ、常に金と交換可能でした。ブレトンウッズ体制の崩壊とは、米ドルが金との交換を停止したことを意味します。

1971年以降の日本円は、それまでの360円時代から数年の300円時代を経て、1977年から完全変動相場制に移行しました。その後、投機的な売買を禁じていた実需原則の撤廃、ブローカーを通さない銀行間直接取引の解禁、ブローカーが世界中の銀行と取引できるインターナショナル・ブローキングの解禁を経て、本当の意味での市場開放がなされました。一連の規制緩和は、私なども利害の当事者となっていた1980年代前半のことです。

一方、中国経済はご存知のように計画経済で、国家・共産党が経済運営を担っています。現在の為替制度は管理変動相場制で、米ドルに連動しながら、変動幅を設けています。完全変動相場制を導入すると、計画経済の前提ともなる為替レートが国家の手から離れてしまうのです。

中国経済は既に世界経済にどっぷりと組み込まれていますが、幸か不幸か、中国政府が世界経済を計画することまではできません。中国の方が世界に合わせねばならないのです。例えば、IMFのバスケット通貨であるSDRの構成通貨は、現在、米ドル、ユーロ、英ポンド、日本円の4通貨だけで、中国は日英ほどにも認められていません。世界第2の経済でありながら、株式指数などでも、未だに新興国市場扱いです。

SDRの構成通貨の見直しは5年ごとで、本来ならば今年10月のはずでしたが、中国元を加えるかどうかの結論が出ず、異例の1年延期となりました。その発表直後に行われたのが元の切り下げです。IMFは元の切り下げに対し、「変動相場制に向かう動き」だとして、一定の評価を与えました。

世界経済の真の一員として認められるためには、中国は世界の共通ルールである変動相場制を導入する必要があります。しかし導入すると、為替レートが市場主導で上下するようになるため、これまでのような自己完結型の計画経済が機能しなくなる懸念があります。中国政府は大きなジレンマを抱えているのです。

とはいえ、中国は1992年から社会主義市場経済を導入しており、私有財産を禁じる共産主義を事実上放棄しています。また、中国経済の失速が世界的な株安を引き起こすほど、ヒト、資金、モノの流れも活発です。これ以上、独自の経済体制を維持することは困難で、事実上の選択肢はないと言ってもいいでしょう。

また、ドル連動相場を維持するには、金融政策も米ドルに連動するか、少なくとも逆行しない必要があります。米国が引き締めに転じると、中国が緩和する余地がなくなるのです。その意味でも、中国は管理変動相場制の見直しを迫られていました。

私は、IMFの見方に近く、元は変動相場制に移行していくのではないかとみています。現状の混乱は、新しい制度に生まれ変わるための、いわば産みの苦しみかと思います。

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矢口 新

矢口 新

大学卒業後、国内外の大手証券会社にて為替、債券のディーラー、機関投資家セールスを勤めた後、株式会社ディーラーズ・ウェブを創業(2002年5月~2013年5月)。2013年4月まで同社代表取締役社長。