FXコラム

中国リスクと歴史というもの

【著者】

日米欧の金融政策の決定に、中国リスクが取沙汰されている。その一方で、地政学的リスクや企業の不正など、日米欧自身がリスク要因を抱えている。そして、減速しているとはいえ、中国経済は依然として米国の倍以上、欧州の数倍のスピード成長を保っている。日本に至ってはマイナス成長でも、世界経済の足を引っ張るとさえ言われなくなった。

中国リスクとは、どういうものなのか? 習近平政権が米欧とは異なった政治体制を採りながら、米欧がパートナーとして受け入れているのは、どうしてなのだろうか? 以下は、日経BPのコラムからの引用だが、米欧はコラムと同じような認識を持ちながら、習近平政権のやり方に目をつぶっている。

(以下、引用)

「習近平政権は中国で目覚め始めた公民権運動を完膚なきまでに叩き潰し、人権派弁護士狩り、知識人狩りを行い、メディアコントロールを強化し、チベットやウイグルの人権を武力を含む力づくで抑え込み、日本などに対して国際社会に対して覇権の意志を隠さない強硬外交を展開している。習近平が胡耀邦の挑もうとしたことに理解を示さず、ただその人気をただ自分の権力強化に利用するだけであれば、彼はきっと草葉の陰で落涙していることだろう。」

参照:習近平「胡耀邦・生誕100周年」大絶賛の狙い
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/218009/112400023/

中華人民共和国建国の父、毛沢東についての書籍が新潮新書からでた。著者は以前、日経BPにコラムを掲載していた遠藤誉氏で、丹念な資料集めと取材、緻密な分析で、私が中国関係の情報で最も信頼を置く人の1人だ。紹介文は以下のように出ている。

(以下、引用)

「この本を読むと、びっくりすると思います。同時に、毛沢東について完璧にイメージがつかめ、中国共産党の『歴史認識』の虚構がはっきりと分かるはずです。編集者の私が言うのも何ですが、『すごい本』です。」

「『日本軍の進攻に感謝する』──。これは1956年9月4日に、毛沢東が訪中した元日本軍中将、遠藤三郎に対して言った言葉です。

日中戦争の時期、毛沢東は『国共合作』で得た国民党の情報を日本に売り、巨額の情報提供料を得ていました。それどころか、スパイを通じて日本軍との停戦を申し入れてもいます。毛沢東の基本戦略は、日本軍との戦いは蒋介石の国民党軍に任せ、温存していた力を日本軍が去った後の『国民党潰し』に使い、自分が皇帝になることにあったからです。

日本軍との協力は、日中戦争の期間にとどまりません。毛沢東は戦後も一貫して、日本の軍人と協力しようとしていました。」

「今の中国共産党の姿勢からは想像しにくいかも知れませんが、毛沢東は『反日』ではありませんでした。中華人民共和国は、『日本をやっつけた国民党軍をやっつけて誕生した国家』であり、毛沢東はそのことを明確に意識しています。『敵の敵』である日本は味方なのです。」

参照:人民を裏切っていたのは「建国の父」だった。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/book/15/233582/111800011/?n_cid=nbpnbo_mlt

遠藤誉氏の著書なら、疑いなく「すごい本」だろう。しかし私は、おそらく同書を読んでもびっくりしないと思う。これまで様々なソースから得てきた毛沢東に対する認識を、遠藤誉氏に補強して頂くだけかと思う。そして同書が出て、評判となっても、上記引用のチャイナ・ウォッチャー福島香織氏の言うように、「歴史は政治」なので、中国政府の姿勢、国際社会の姿勢には変化がないと見ている。

私は中国リスクの最大のものは、その大きさだと見ている。中国2014年のGDPは、10兆3565億ドルだった。1位米国17兆3481億ドルの6割、3位日本4兆6024億ドルの2.3倍、4位ドイツ3兆8744億ドルの2.7倍もある。人口に至っては、13億3782万人いる。2位がインドの12億7592万人。3位が米国で3億1908万人だ。

これが2つに分裂し、半々や、3分の1と3分の2に分かれると、小さい方でも3兆1383億ドルと、2兆9500億ドルの5位英国より多い規模、人口では4億4148万人と、米国よりも多い。この2つの中国が、古代の中国のように相争えばどうなるか?

ロシアにプーチンが必要なように、イラクにフセイン、シリアにアサドが必要だったように、中国には習近平が必要なのかもしれない。加えて、中国は大き過ぎて潰せない。

中国と対立しても得るものは少ない。一方で、中国と共存すればその果実の分け前に預かれる。米欧がそして日本が、中国をパートナーとして受け入れる要素がここにある。

【みんかぶマガジン】矢口氏のコラム
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矢口 新

矢口 新

大学卒業後、国内外の大手証券会社にて為替、債券のディーラー、機関投資家セールスを勤めた後、株式会社ディーラーズ・ウェブを創業(2002年5月~2013年5月)。2013年4月まで同社代表取締役社長。