Cometh the hike -近づく利上げ、問題は時期-

【著者】

FRBの利上げが近いとの見方で一致するアナリストですが、その時期の予想は割れています

 ヨーロッパの新聞各紙のトップニュースは、2015年第2四半期も引き続きギリシャのユーロ圏離脱(グリジット)の可能性をめぐる動きでした。そのため、2006年以来となる米連邦準備制度理事会(FRB)利上げの可能性は2面扱いでした。しかし、利上げの時期が近づけばイエレンFRB議長がメディアに登場する頻度は当然増えるはずです。

 2015年第1四半期のマイナス成長を記録したアメリカ経済は、その後は緩やかながらも着実に成長を続けています。現時点では、FRBが利上げに踏み切るかではなく、利上げがいつになるかが市場のテーマとなっています。利上げ時期の予想は人それぞれですが、市場のコンセンサスを大別すると9月と12月の2つに分かれています。私は以下の理由から「9月派」です。

 FRBの2つの法的使命(デユアルマンデート)は「物価の安定」と「完全雇用(雇用の最大化)」ですが、いずれもまだ十分には満たされていません。インフレ率は2%のインフレ目標をかなり下回ったままです。 ちなみに、FRB が注視するPCE (コア個人消費支出)インデックスは4月時点で前年比1.2%でした。

 米ドル高は第3四半期も引き続きインフレ率の上昇を抑える見通しですが、アメリカでは物価圧力が高まる兆候が見られています。それは雇用コスト指数に顕著に表れており、第1四半期には2.6%という6年ぶりの高水準、5月の平均時給上昇率は2.3%でした。

アメリカのインフレ率と失業率の推移

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さらに、最近の世帯調査によると、約50%が「今後1年間に収入が増える」と回答しています。2009~13年の平均は40%弱でした。賃金の上昇圧力がそれだけ高まったことを示していますが、その背景には雇用市場の回復があります。

 FRBの雇用に関する法的使命から判断しても、利上げの可能性が高まっています。2015年1~5月の累計雇用増加数はほぼ110万人に達し、5月の失業率は5.5%、労働参加率も上昇しています。

 一部のFOMC委員は、3月の雇用統計で非農業部門雇用者数が2013年12月以来の小幅な増加にとどまったのは「ブリップ」(一時的な現象)に過ぎないと判断していました。しかし、それを確認するには5月の雇用統計の発表を待たねばなりませんでした。5月の非農業部門雇用者数は2014年12月以来の高い伸びを示しました。雇用統計の改善と、物価の上昇圧力(まだ断定はできませんが)を背景に、FRBは9月の利上げに傾いています。

ユーロ圏のGDP成長率、民間最終消費支出、政府最終消費支出

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欧州中央銀行ECB)のドラギ総裁はユーロ圏独自の問題を抱えています。ギリシャのユーロ圏離脱の懸念が高まる一方で、ドイツ10年物国債の利回りは、第2四半期の0.2%以下の水準から0.8%台に急上昇しています。

 これまでのところ、ドラギ総裁は国債利回りの急上昇について、「我々はそれに慣れる必要がある」とコメントし、慌てる様子を見せていません。しかし、利回りの上昇が続けば、ドラギ総裁は何らかの「口先介入」を行わざるを得なくなるかもしれません。

 ユーロ圏の実質成長率は上昇傾向にありますが、それが残念な副作用をもたらしています。その副作用とは、成長率がプラスに転じたために多くの加盟国が構造改革を遅らせていることです。ECB政策理事会が繰り返し警告してきたことが現実になっているわけです。構造改革の遅れは、ユーロ安と原油価格の下落というユーロ圏にとっての追い風が吹かなくなれば、ユーロ圏経済が債務危機のなかで何年も抜け出せなかった低成長に戻るリスクを高めています。

 一方、2015年第1四半期の政府最終消費支出は前年比1.1%増でした。そのことは緊縮策の景気への影響がかなり低減していること示しています。民間部門の借入の伸び率もプラスに転じています。いずれも、ユーロ圏のほぼ2年ぶりの高成長に貢献しました。

 2015年下半期のユーロ圏の景気は引き続き堅調だと予測されますが、現在の成長率を大きく上回る可能性はないと判断しています。

表1 GDP(%) 予測の上振れリスク・下振れリスク
2014 2015 2016 上振れリスク 下振れリスク
世界 2.4 2.8 3 原油安、先進国の緊縮政策の緩和。 政治学的緊張、中号の想定を超える中国の景気後退。
アメリカ 2.4 2.6 3 消費拡大、住宅市場の回復、エネルギー価格の低下。 米ドル高の進展。
ユーロ圏 0.8 1.5 1.5 緊縮策の緩和、民間支出の増加、金融緩和政策、エネルギー価格下落、ユーロ安。 一部加盟国の構造改革の遅れ、地政学的緊張による成長の阻害。
イギリス 2.6 2.5 2.2 民間の業績向上、政府の景気てこ入れ。 住宅部門の急減速、英ポンド高。
中国 7.4 6.7 6.2 世界景気の改善、財政・金融政策の一部緩和。 信用膨張で大規模な景気刺激策の見送り、内需主導の成長政策の長期的なマイナス効果。
日本 -0.1 1 1.2 景気てこ入れにさらなる金融・財政刺激策の導入。 構造改革の遅れ。

備考:
GDP数値はインフレ調整後の実質成長率で、前年比。2014年は実績、2015年と2016年は予測。

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