安倍首相、消費税率引き上げ延期の意向を固める

【著者】

私は導入当初に機能していたアベノミクスが失速した理由について、以下のように推測した。

「政治は優先順位だ。アベノミクスが失敗したのは、安倍首相にとっての日本経済の先行きが、最優先課題ではなくなったからだ。では何が経済再生よりも大事なのか? 憲法改正だろう。安全保障と憲法とを経済再生より上に置いたために、『三本の矢』は様々な圧力に対しての譲歩を余儀なくされた。欲が弱みとなったのだ。安倍首相の真意を好意的に推測すれば、そのように見える。」

「国を守る力は軍事力だけではない。むしろ、軍事力はその1部でしかないと言える。報道を見ていると、中国は仮想敵国となっている。しかし、実際の中国人たちは日本に来て、日本の製品を喜んで買って帰る。このことは、日本がより良いものをつくることの方が、平和に貢献することを意味しないか?

戦争すれば人が死ぬが、まだ戦争を始めていない日本で、経済的な貧困のために多くの人々が死につつある。安倍首相は政治の優先順位を見失ったように思えてならない。」

「安倍首相は初心に帰るべきだ。アベノミクスの『三本の矢』の、金融政策は引返せないところまで飛んでいる。財政政策と規制緩和による成長がなければ、すべての矢が折れる。

今の政府と官庁がなすべきことは、民を信じて減税を行うことだ。それが、個人消費拡大、景気拡大を通じて税収を増やし、ひいては財政再建にもつながると言える。」
(参照:アベノミクスは、なぜ失敗したか?

上記の「様々な圧力に対しての譲歩を余儀なく」とは、具体的には、「選挙公約の増税を延期するなら、解散総選挙をするのが筋だ」と明言した麻生財務相、「麻生さんと同じ考え」だとした谷垣自民党幹事長と、その背後にいる財務省から増税圧力だ。安倍首相が経済再生以外に欲があるとすれば、こういった大勢力に譲歩をしておく必要があった。

消費税率を引き上げたのは野田民主党政権だ。そして今回、安倍首相が増税先送りを発表したことで、野党4党は内閣不信任決議案を31日に衆院提出の方針を固めたようなので、野党4党も実質的な増税派だったのかも知れない。

これだけの勢力を「敵に回した」のだから、安倍首相は憲法改正を諦めたのかも知れない。少なくとも、政策の優先順位を国防から、経済に戻したと言える。英断だったと思う。経済なくして、国防もあり得ないからだ。

私は、日本経済の再生、そして財政再建には、所得税減税による個人消費拡大、経済成長、税収増に賭けるしかないと見ている。過去の例では、消費税収には限界があるが、所得税収の上振れは相当に期待できるものだからだ。

消費税率が現状の8%ではまだ重い。とはいえ、10%になることを思えば、よくぞ延期してくれたと言える。8%ならば、円安や、海外需要の拡大があれば、日本経済の再生、そして財政再建にもつながる可能性がある。折を見て、「消費税と所得税」について述べるつもりだ。

今後は、次の志のある政治家を待って、8%を5%に、5%を3%に、3%を0%にしてくれるのを待つばかりだ。そうなれば、日本経済が再生し、財政再建もなると見ている。
私は安倍首相に素直に「ありがとう」と言いたい。

【みんかぶマガジン】矢口氏のコラム
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矢口 新

矢口 新

大学卒業後、国内外の大手証券会社にて為替、債券のディーラー、機関投資家セールスを勤めた後、株式会社ディーラーズ・ウェブを創業(2002年5月~2013年5月)。2013年4月まで同社代表取締役社長。