FXコラム

原油の長期需給バランスは低価格でしか安定しない。目先は反発も。

【著者】

原油を含む商品価格の長引く下落は、世界経済と金融市場を不安定にさせている。産油国や資源の輸出に依存する新興市場国はもちろんだが、資源の輸入国である日本市場ですら、不安定になっている。このままの下落基調が続けば、日銀のインフレ目標の達成が困難になり、追加緩和の必要がでてくる可能性があるのだ。また、既にほぼ織り込み済みとなった米連銀の利上げが難しくなる。

原油先物の指標であるニューヨーク市場のWTI先物1月限は、9日に7年ぶりの安値近辺である1バレル37.45ドルで引け、ロンドン市場のブレント先物1月限は7年ぶりの安値となる39.57ドルから持ち直したものの40.11ドルで取引を終えた。

こうした急激な下げは、投機筋の関与を示唆している。

ユーロドル

上のチャートはユーロドルのチャート。下のチャートはWTI先物のチャートだ。

WTI原油

ユーロドルと原油価格は値動きが似ているとしばしば指摘されるのだが、こうして並べて見ると、高値や安値をつける時期が近く、確かに大筋の動きは似ている。どちらも対ドル価格であることを鑑みれば、ユーロ建ての原油価格は意外に安定しているのかもしれない。

2つのチャートを比較すると、右端にある直近の部分はユーロドルがリーマンショック後の安値を2014年12月に更新しているのに対し、原油価格は今まさに安値を更新するかの勢いだ。

ユーロドルは先日のECBによる「追加緩和」が不十分だとして、大きく買い戻された。しかし、それはあくまでユーロショートの買い戻しという自律的な動きで、長期的な動向ではない。ユーロは単一の金融政策と、一律の財政規律の押し付けの弊害が顕著なうえに、圏内の人の自由な移動を保証するユーロ導入の根幹そのものが揺らぎ、崩壊の過程にあると言える。それでも短中期的には最大1.30近辺までの戻しがあっても不思議ではないチャートだ。

参照:ユーロに降りかかるテロ対策の難題
https://fx.minkabu.jp/hikaku/fxbeginner/euro-counter-terrorism/

同じように、原油価格のこのような下げ方は、近い将来の大きな反発を暗示させる。リーマンショック後の安値近辺では、更新しても、更新できなくても、いったんの買い戻しに要注意だ。
とはいえ、それはあくまで自律的な動きで、長期的な動向ではない。

原油価格の長期的な下落は、需給バランスの崩れにある。米国、カナダなどのシェール原油が原油市場に大口供給者として参入したことにより、需要の増加に比べて、供給力が格段に増大した。現状では、原油価格の下落が多少の供給減につながっているが、日毎に産出コストが下がっているため、少しでも油断したり、価格の上昇が見られると、供給が勝ってしまう。

OPECは10月の月刊市場報告書で、2016年の世界の原油需要見通しを日量9286万バレルから、9411万バレルに引き上げた。OPEC原油への2015年の需要は前年比60万バレル増の2960万バレルとした。OPECが10月のペースで石油生産を続けるなら、来年の市場供給余剰分は日量56万バレルとなる。2016年には3080万バレルへの需要増を見込んでいる。

非OPEC原油の2015年の供給は前年比72万バレル減の見通しとした。2016年はさらに13万バレル減少する見通し。米国の原油と液体天然ガスとを合わせた生産量は来年0.5%減少し、日量1247万バレルになると予測した。米原油の生産減少は8年ぶり。

先日の会合では、OPECは生産量を現行水準の日量3150万バレル維持で決定し、公式の生産目標の設定を見合わせた。

一方、世界最大の産油国の1つロシア11月の石油生産速報値は、前月比フラット、前年比1.3%増の日量1078万バレルと、過去最大水準だった。ロシア1国で、旧ソ連全体の産出量に匹敵している。輸出は前月比2.4%減、前年比11.2%増の日量532万バレルだった。

温暖化対策として、化石燃料から再可能エネルギーへのシフトが加速する可能性が高い。ガソリンを大量に消費してきた自動車も、ガソリン離れの動きが加速してきた。一方で、ロシアやサウジアラビアのように安くても売りたい国が多く、埋蔵量に比べてほとんど産出していない潜在的な大供給国も存在する。需給バランスは原油価格の安いところでしか安定しないのかもしれない。

原油生産国

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矢口 新

矢口 新

大学卒業後、国内外の大手証券会社にて為替、債券のディーラー、機関投資家セールスを勤めた後、株式会社ディーラーズ・ウェブを創業(2002年5月~2013年5月)。2013年4月まで同社代表取締役社長。