注目PickUp

ドル円と日本株のトレンドは変わったのか? その3

【著者】

ドル円と日本株のトレンドは変わったのか?【その2】

ドル円が2011年に大底をつけたのは、貿易赤字が示す円売り外貨買いが急増したからだ。このことは、貿易赤字が続く限り、実需面での円安圧力も続くこと意味している。

前回ご紹介した日本の貿易収支は通関統計によるもので、直近のデータは2014年までだった。

一方、財務省は国際収支ベースの貿易収支も発表している。こちらは2015年までのデータがあって、以下の通りだ。

円の実需

青線の第一次所得収支とは、直接投資収益:親会社と子会社との間の配当金・利子等の受取・支払、証券投資収益:株式配当金及び債券利子の受取・支払、その他投資収益:貸付・借入、預金等に係る利子の受取・支払となっていて、これまでに日本企業が海外で、海外企業が日本国内で行った(事業、証券などの)投資からの収支だ。これは一貫して日本側の黒字で、直近では20兆円を超えてきている。

この黒字も円高要因には違いないが、必ずしも円に戻す(円転と呼ぶ)必然性がないためか、為替レートとの目立った相関性は見られない。

茶線の第二次所得収支は、官民の無償資金協力、寄付、贈与の受払等の内外収支だ。直近に見られる赤字幅の目立った拡大は、安倍首相の積極外遊、バラマキ外交の結果だと思われる。

通常はモノの貿易収支とサービス収支を含めて、貿易収支と呼ぶが、ここでは分けて表示している。共に、赤字なら円売り、黒字なら円買いを伴い、ドル円レートとは強い相関関係がある。これが直近では共に均衡に近付いていて、2016年中にも黒字化する勢いだ。

つまり、2011年以降の実需面での円安要因が急速に消滅しつつある。あるいは、経常収支全体ではすでにかなりの円高要因となっている。

国際収支には、経常収支と並んで金融収支があるが、こちらは外貨準備高を除いては、為替レートとの明確な相関関係を知ることが困難だ。なぜなら、証券投資には為替が絡まない調達・運用共に現地通貨建てのものが相当量含まれているからだ。また、為替が絡むものでも、為替ヘッジにより為替レートによる影響を排除しているものが相当量あるからだ。これらの投資は為替レートに影響を与えることはできない。

一方で、日米金利差とドル円レートには相関関係が見られている。例えば、日本国債と米国債の同年限同士の利回り較差が広がると、ドル円レートが上昇する。

日米金利差とドル円

ところが直近に限っては、金利差が拡大しているにも関わらず、ドル円レートの上昇が見られない。これは投機筋が空前の円買いポジションをつくっているためでもあるが、日本国債の利回りがマイナスゾーンに入っていることも原因していると思われる。米側が動かず、日本側がマイナス幅を拡大すれば金利差は拡大するが、マイナス金利で調達できるのは事実上、日本政府だけだからだ。信用リスクのある民間は多少なりとも金利を支払うので、実際の金利差は見た目ほど拡大していないと考えられるからだ。

金利差がそれでもあるにも関わらず、投機筋は円買いポジションを拡大している。金利差など目じゃない、十分なキャピタルゲインが得られると見込んでいるからだ。信用取引で金利を支払うのと同じだ。

IMM通貨先物市場に見られるドル円のネットポジションは、大きくドル売り円買いとなっている。ドルロング・円ショートが減少しているためでもあるが、それよりもドルショート・円ロングのポジションが空前のレベルに拡大している。ちなみに、大手の投機筋が通貨先物市場を使うことはまずないが、IMMのポジションは大手の投機筋も参照にしている有力な指標だ。

空前の円買い

長期トレンドに関与する貿易収支などが、もはや円売り要因ではなくなってきた。中期トレンドに影響を与える日米金利差は、米連銀が継続的に利上げを続けない限り実質的には広がらず、円売り要因とはなりにくい。短期トレンドに影響を与える投機筋は、円買いを拡大している。つまり、どこにも円売り要因が見られない。これが、直近のデータに見られる円相場の需給関係なのだ。(続く

【みんかぶマガジン】矢口氏のコラム
最新記事:16/12/5「イタリア国民投票の焦点
矢口 新

矢口 新

大学卒業後、国内外の大手証券会社にて為替、債券のディーラー、機関投資家セールスを勤めた後、株式会社ディーラーズ・ウェブを創業(2002年5月~2013年5月)。2013年4月まで同社代表取締役社長。