日銀の追加緩和は必要か?

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FXコラム||2014/06/02

米国の長期金利の低下傾向が「謎」扱いされている。また、日銀の黒田総裁や岩田副総裁が日本の潜在成長率の低下を強調し、ここにきて政府による成長戦略や構造改革の断行を訴え、追加緩和を控えていることで、日銀が微妙に姿勢を変化させているという声も聞く。それにより、思ったほどの円安が進まず、日本株もたつきの要因となっているというのだ。

ところで、米国の長期金利の低下傾向は本当に「謎」だろうか? 米連銀の量的緩和は縮小に向かったが、量的緩和そのものは継続中だ。つまり、依然として米長期国債を買い上げて、長期金利の低下を促している。また、政策金利は空前の超低金利で、当面の利上げは未だ視野には入っていない。予断や、思い込みを排除すれば、短期金利がほぼゼロで、連銀が長期国債を買い上げている時に、10年国債の利回りが2.50%を下回ったことを「謎」とすることの方が不思議だ。

ダウとS&Pは2014年5月末の終値で史上最高値を更新、月間では2月以来の上げ幅で4カ月連続の上昇だった。米国債は月間では1月以来の値上げ幅だった。金融緩和によるカネ余りの効果は十分に出ているのだ。

日銀の追加緩和も同じだ。黒田総裁は異次元緩和を決定した2013年4月の時点で、「戦略の逐次投入をせずに、現時点で必要な政策をすべて講じた」と述べていた。戦力の小出しをせず、当初から異次元と呼ぶほどの総力戦に挑んだということだ。それでも効果がなければ、追加緩和を含む、他のあらゆる手段を期待するのなら分かるが、それなりの効果が見えている時に、追撃戦が必要だろうか? 忘れてはならないのは、異次元緩和は継続中であることだ。超低金利と、長期国債買い上げによる異次元の資金供給は続いているのだ。

常識を働かせれば、異次元を超える追加緩和を期待する時は、状況が相当に追い詰められた時に違いない。少なくとも、デフレ脱却や雇用市場の改善が見られ始めている現状では、緩和縮小がないだけでも、相当の意思表示だと見るのが自然だ。

このことは、黒田総裁たちは成長戦略や構造改革がないままでは、デフレ脱却や雇用市場の改善は続かないと見ているとも捉えることができる。私も同感で、今の景気回復は「円安の恩恵」でしかないと思うからだ。

私は世界的に突出した円高が続くと、日本の産業は壊滅すると、長い間言い続けてきた。2011年に赤字に転じた貿易収支や、2013年からの異次元緩和で円のトレンドは変わったが、その効果を見ていると、やはり、円高が諸悪の根源だったと断言することができる。このことは、再び円高に転じれば、現状の景気回復は元の木阿弥となることを示唆している。私などの考えでは、追加緩和はそういった「まさかの時の備え」でいいかと思う。

常識的に考えれば、米長期金利の低下は長くは続かない。量的緩和の終了で上昇に転ずることがなくても、利上げではトレンドが変わる。そうすると、円安が定着する可能性が高い。その時までに必要性がなければ、黒田総裁の任期中での追加緩和は、やらなくてもいいかと思う。日本の産業はもう大丈夫だということだ。

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矢口 新

独自テクニカルで『相場のタイミングを捉える』 矢口 新

大学卒業後、国内外の大手証券会社にて為替、債券のディーラー、機関投資家セールスを勤めた後、株式会社ディーラーズ・ウェブを創業(2002年5月~2013年5月)。2013年4月まで同社代表取締役社長。