FXコラム

ユーロとギリシャ問題【その3】

【著者】

その2:米英の利下げと、ユーロの利上げ

その3:PIIGS諸国は、本当に豚野郎か?

PIIGS問題と、その後の展開において、市場には悪意のあるデマが流されている。PIIGS諸国の国民は無能あるいは怠惰で、有能で勤勉なドイツが迷惑しているというものだ。

とはいえ、2007年までの優等生は成長率や財政収支を見る限りアイルランドで、ドイツは並みの国でしかない。

また、歳出は予算面で固定費用が多いことから削減は緩慢で、景気後退により税収が減る局面では、財政収支が悪化することが見て取れる。

このことは、PIIGS問題は少なくともギリシャを除き、放漫財政の結果というよりは、2008年以降の景気後退が主因である可能性が高い。また、その景気後退を加速させたのはECBの利上げだった。

ギリシャ問題

もっとも財政面に難のあるギリシャとて、無能あるいは怠惰という指摘は当たらない。現状の高失業率から見れば、ギリシャ人がよく働くとはもはや言えないが、景気が悪化する前までの週当たりの労働時間はドイツ人よりもはるかに多かった。非効率と言えばそれまでだが、日本の地方都市に見られるように、小規模企業や商店の割合が高かったのだ。

そして、ユーロ圏としてドイツの大企業との垣根をなくしたおかげで、そういった小規模企業や商店は駆逐されていった。いま、ギリシャの中心街は日本の地方都市に見られるようなシャッター街となっているようだ。

参照:アテネで記者が見た質屋と「100円ショップ」の意味
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20150430/280610/?n_cid=nbpnbo_mlp

ギリシャの政府債務のGDP比は日本に次ぐ、世界第2位の高率だ。とはいえ、それが急速に悪化するのは2011年以降だ。

政府債務

2010年当時、ギリシャの短期国債利回りは40%を超える水準にまで上昇した。仮に2010年に40%の金利で2年国債を10億ユーロ発行したとすれば、2011年の利払いが4億ユーロ。2012年の償還金が利息を含めて14億ユーロとなる。景気後退、税収減では償還金が払えず、借り換えを余儀なくされる。こういった状況下では、どんなに歳出を削減しても政府債務の膨張は避けられない。

一方、ユーロ圏随一の優等生だったアイルランドは、景気後退期に財政出動を行った可能性がある。他の諸国は景気後退期に逆に緊縮財政を強いられた。そして、緊縮財政に抵抗したギリシャ、イタリア、スペイン、アイルランドの政府は次々に転覆させられ、ユーロ官僚的な政府に取って代わられた。

ユーロ圏には通貨金融政策は1つしかない。各国固有の問題が起きても1つの金融政策で対応する。一方、財政政策は固有だが、景気後退で財政収支が悪化した国に財政出動は許されない。事実上、財政政策もユーロ政府にコントロールされる。このことはユーロ圏諸国には固有の経済政策はなく、ユーロ政府とECBが司ることになる。ユーロ政府を動かせるのは独仏だが、経済情勢と政策との整合性を見ると、実際にはドイツだけのための政府、中央銀行と言えるかもしれない。

日本で地方に進出した大規模小売チェーンが、政府や日銀を動かし、自分に都合のよい政策を誘導することはフェアだろうか? また、地方経済の地盤沈下を憂い、中央に抵抗する姿勢を示した地方政府の首長を次々と排し、中央政府から人材を送り込むことが許されるだろうか? 加えて、小規模資本ゆえに非効率で、勤勉に働けど大きな収益とはならず、政治にも影響力が持てないことを、無能や怠惰とし、豚野郎(PIIGS)と呼ぶことが正当だろうか? ユーロ圏の実態は、実はそのようなものなのだ。
(その4:ギリシャの次はスペインか?へ続く)

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矢口 新

矢口 新

大学卒業後、国内外の大手証券会社にて為替、債券のディーラー、機関投資家セールスを勤めた後、株式会社ディーラーズ・ウェブを創業(2002年5月~2013年5月)。2013年4月まで同社代表取締役社長。