FXコラム

誰が欧州統合の障害か?

【著者】

シティグループのチーフエコノミスト、Willem BuiterはCNBCの番組”Squawk on the Street” で、「金融危機には対処できるが、欧州統合へのプロセスに与えるダメージには対処できない」と述べた。「もしギリシャが離脱すれば、1951年に統合への道筋が合意されてから、初めての逆行になる。これは大参事になる」。

参照:Father of Grexit: ‘Disaster’ for euro zone if Greece leaves

http://www.cnbc.com/id/102788279 (英字サイト)

欧州統合は2度の世界大戦の舞台となった欧州各国の悲願だった。統合とは50州が集まったアメリカ合衆国や、15の共和国から構成されていた旧ソビエト連合のような統一国家を意味していた。当時は、世界全体を単一の政府のもとに統一し、全人類を一国民とする「世界国家」の発想すらあった。

ユーロはその先駆けとして、まず通貨金融政策を統一し、その後できるだけ早い時期に財政、年金・社会保障基金の統一を図るというものだった。

あえて、過去形をつかっているのは、欧州はもはや本気で統合を考えているとは思えないからだ。統一国家を目指すのなら、経済成長の地域差を補う財政資金の配分が不可欠だ。

米国の有力な学識者で、金融政策担当者でもあったリンゼー(Lawrence Lindsey)によれば、米ドルがユーロ圏より広大なアメリカ合衆国をカバーできる理由は、労働市場の流動性と自動的な財政資金の移動配分にあるという。

米国国内では、ある州が不況に至ると、何10万人単位、場合によっては百万人単位で労働力の大移動が起きるという。また景気が低迷し税収が落ちた州には、財政資金が自動的、優先的に多く配分されるというシステムがあるのだ。リンゼーは、この自動的というところがこのシステムのキーだと言う。

また、旧ソ連では計画経済により重点地区で公共投資を行い、労働力を強制移住させてきた。

つまり、通貨金融政策だけの片肺飛行では、いつまでも飛び続けることができず、墜落が不可避だともいえるのだ。

6月26日時点で、ギリシャと欧州政府やIMFとの合意が達成できない点が「年金減額と付加価値税(消費税)の幅」となっていることは、通貨金融政策を握る欧州政府が、財政、年金・社会保障基金はあくまで固有だと固執していることを意味する。ギリシャの歳出は既に削られるところまで削られ、年金支給額も大幅に減額されている。

参照:ギリシャにみる財政健全化と経済成長のジレンマ

http://money.minkabu.jp/50704

ここで将来、欧州統合がなったとして、財政、年金・社会保障基金の統一で、ギリシャの年金支給がドイツ並みに引き上げられるようなことが起きるのだろうか? 本気でそのようなことを考えているのなら、いま譲歩すべきなのでは欧州政府の方で、ギリシャに財政支援をし、年金支給額を元のレベルに引き上げるべきだろう。

【みんかぶマガジン】矢口氏のコラム
最新記事:16/12/5「イタリア国民投票の焦点
矢口 新

矢口 新

大学卒業後、国内外の大手証券会社にて為替、債券のディーラー、機関投資家セールスを勤めた後、株式会社ディーラーズ・ウェブを創業(2002年5月~2013年5月)。2013年4月まで同社代表取締役社長。