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フィンランド発、新たな福祉行政のあり方

【著者】

フィンランド政府は成人国民全員に非課税で月800ユーロを支給し、失業保険や生活保護など、他のすべての福祉制度の打ち切りを検討している。支給対象は全ての成人国民で、収入や資産の多寡、有職、無職を問わない。

フィンランドの福祉制度は非常に複雑で運営に多額の費用がかかっている。政府はこれを単純化することにより、コストがかかる役所仕事を減らせることができ、かえって歳出を削減できると考えている。

また、現在失業率は10年来で最高の9.5%だが、全員支給により失業保険が打ち切られるため、職探しをする人々が増えると考えられている。

9月に行われた世論調査では、69%の国民が賛同した。

参照:Why Finland wants to give every adult $10,000 a year
http://money.cnn.com/2015/12/07/news/economy/finland-basic-income-800-euros/index.html?iid=surge-stack-dom

日本でも、すべての福祉行政を生活保護費に一本化しろとの意見がある。医療費や子育て、教育費、住宅ローンの負担、失業手当なども、生活に支障がでるレベルになって、初めてセイフティネットが必要だというわけだ。現状のように困ってもいない人にも支給する制度は、本来の目的からは離れているだけでなく、維持できなくなるとの意見だ。

これは私も賛同できるが、それでも、受給者の尊厳が損なわれる可能性がある。

それに比べると、フィンランドの試みは興味深い。誰でもが最低限の生活費が得られるなら、とにもかくにも生きてはいける。少しだけ物質的な贅沢が欲しいなら、少しだけ働けばいい。多くの収入は望めないが、生き甲斐のある仕事も、安心して続けられる。芸術家や発明家などクリエイティブな人々にも朗報だ。

役所仕事は激減するが、その人たちにも最低限の生活費は得られる。赤字続きの役所で、継続不可能な業務から解放され、一度限りの人生で別の可能性を探すこともできるのだ。

日本の成人人口は約1億人。年間100万円の支給で100兆円と、現在の歳出規模に匹敵する。財源を言い出したなら、現在の歳出規模が正当化できない。問題は、現状と、日本の成人全員に年間100万円の支給することと、どちらにより多くの経済成長が期待できるかだ。

途方もない考え方のようだが、多くの面で世界で最も進んでいる国1つが、本気で検討している。日本の政治家や官僚で、検討する人はいないのだろうか?

【みんかぶマガジン】矢口氏のコラム
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矢口 新

矢口 新

大学卒業後、国内外の大手証券会社にて為替、債券のディーラー、機関投資家セールスを勤めた後、株式会社ディーラーズ・ウェブを創業(2002年5月~2013年5月)。2013年4月まで同社代表取締役社長。