FXコラム

極めてリスキーな、日本の財政再建策

【著者】

2014年度の国の一般会計税収は51兆円台半ばと、消費税率を3%から5%に引き上げた1997年度の53.9兆円以来、17年ぶりの高水準となる見込みとなった。

こう聞いた時の皆様の印象はどういったものだろうか? この事実だけを見れば、消費税率を引き上げた時に税収が最高額となっているので、財政再建にはやはり増税が効果的だと感じるかもしれない。

しかし同じ事実が見方を変えれば、税率を上げた年には税収が増えるものの、以降は税金という名の行政サービスのコストが引き上げられてしまっているので、民間のパワーが減じられ、以前のような税収確保ができなくなっていることが分かる。

日本経済の最大のエンジンは個人消費だ。そのままの状態で100%のパワーが出せるとすると、消費税率3%では97%のパワーに減速させられる。それでもバブル期には1990年の税収が60.1兆円とそれなりのパワーが出せた。その後はバブル崩壊で税収も減るが、94年の51.0兆円を底に税収が増え始め、97年には増税効果もあり、53.9兆円にまで回復する。

しかし、増税は行政サービスのコスト引き上げを意味するので、5%への引き上げ以降、個人消費のパワーは95%以上が出せなくなる。その結果、翌年からは2007年の51.0兆円を天井に、38.7兆円まで税収が落ち込むことになる。

日本の財政
参照:一般会計税収、歳出総額及び公債発行額の推移
http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/003.htm

そして、5%から8%への増税効果もあって、2014年はようやく51.0兆円を上抜けできたということだ。しかし、増税効果を含めた見通しは50兆円止まりで、上振れの約1.5兆円は景気拡大による所得税や法人税の増収だ。

経済産業省の調べでは、東証1部上場企業の9割、中小・零細企業でも6割超がなんらかの賃上げを実施した。所得税収は9月までの実績で6兆8000億円と前年を6.6%上回るペースで推移している。

法人税も企業業績の改善が続いており、想定を上回る公算が大きい。上場企業の15年3月期は連結経常利益が、金融危機前の08年3月期に記録した過去最高益に迫る見通しだ。もっとも、海外展開する大企業を中心に円安・ドル高で伸びた海外子会社からの配当収入はほとんど課税されないので、企業収益の伸びほど税収が伸びていないとの見方もある。

一方で、行政サービスのコストを8%に引き上げたことより、個人消費のパワーは4月以降92%止まりとなっており、日本経済は即座にリセッション入りした。

10%への増税先送りで、2015年度は1.5兆円分の財源を失うことになるとされている。1.5兆円とは景気回復による上振れ効果とほぼ同じだ。一方で、消費税率を10%に引き上げれば、個人消費のパワーは90%止まりとなる。そこまでパワーを削がれたなら、少なくとも過去の例を参考にするなら、税収の落ち込みは38兆円を大きく割り込んでも不思議ではない。再増税をよくぞ先送りしてくれた。

上のチャートを見れば、財政赤字の原因がはっきりと分かる。収入を上回る支出を続けているからだ。そして、その赤字を国債発行という借金で穴埋めしているのだ。

過去の例では、消費税率の引き上げは財政再建に役立たないどころか、税収減につながっている。5%から8%への引き上げを、財政再建の観点から正当化するのは極めて困難だ。政府は、無駄な出費を抑える努力を第一義に考えて貰いたい。

【みんかぶマガジン】矢口氏のコラム
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矢口 新

矢口 新

大学卒業後、国内外の大手証券会社にて為替、債券のディーラー、機関投資家セールスを勤めた後、株式会社ディーラーズ・ウェブを創業(2002年5月~2013年5月)。2013年4月まで同社代表取締役社長。