☆欧州連合の未来はどうなる? -6- 最終

【著者】

前回記事:ポンドドルの底値は?:欧州連合の未来 -5-

規制強化で、殺されつつある世界の市場主義経済

ブレグジットは、国民国家による孤立主義と、自由主義経済の闘いだと見なす人たちがいる。また、市場主義経済はもはや機能していないとも言う。民主主義の擁護者を自任していたはずの英文メディアでも、ブレグジットを行き過ぎた民主主義(too much democracy)と、批判する記事が目立つ。

では、市場経済を支えているものとは何だろう? 市場は多くの人々が売り買いする場だ。より多くの人々が様々なニーズや意欲を持ち込むことで、市場はより良く機能し、市場価格は安定する。市場は多様性を尊び、多様性は市場を機能させる。私は民主主義もまた、多様性を擁護するものだと思っていた。

世界国家、あるいはグローバリゼーションの理想は、そういった多様性を包み込み、尊ぶことだった。だからこそ、お互いを隔てる国家の壁さえなくなれば、人、モノ、資金の移動が容易になり、市場が効率化すると考えられた。

ここでの問題は、では誰が世界国家を、またその前段階であるブロック経済圏国家を、現実的に管理、運営するかだ。無政府ということは、少なくともどこかの政府が主導する限り、あり得ない。

現実に起きていることは管理の強化だ。これも当然の帰結かも知れない。EUが欧州戦国時代から、欧州天下統一への試みだとすれば、豊臣、徳川両政権が行ったような管理の強化が避けられないともいえる。豊臣、徳川両政権は基本的には多様性を否定し、市場機能を限定した。国家間の戦争こそなくなったが、必ずしも平和ではなく、経済は停滞し、人口も増えなかった。EU政府も個々の国々から通貨と金融政策を取り上げ、財政政策に縛りを入れることで、多様性を否定し、管理を強化して、市場機能を限定した。そして、働き方や生き方まで、事実上、左右するようになっている。

グローバリゼーションは、日本でも多様性を殺しつつある。個人商店の個性はなくなり、コンビニ、ファーストフード、チェーン店、どの地方へいっても画一化されつつある。ここでも、働き方や生き方まで、事実上、左右されている。

今の世界で起きていることは、市場主義経済が機能していないのではなく、国際機関や超国家による規制強化で、市場経済が殺されつつあるように思える。市場機能は限定され、多様性が否定され、格差拡大、富の偏在が進行しているのだ。

欧州では個人レベルだけでなく、国家レベルでの格差拡大、富の偏在も極端な形で進んだ。欧州で何が起きたのか、以前の米SNBCに、たった一言で私にすべて理解させてくれるコメントがあった。「ユーロ圏はソビエト連邦モデルへ完全回帰した」だ。

参照:Soviet-style scare? Extreme predictions for 2014

ECBの金融緩和が終わる時

米国のサブプライムショック、その約1年後のリーマンショックが改めて証明したのが、金融政策は極めて効果的だということだ。FRBによる金融緩和で、米国の雇用市場や住宅市場は完全回復した。ECBによる金融引き締めで、ドイツのインフレは未然に収まり、金融緩和で雇用市場は完全回復した。また、他のユーロ圏諸国も、ECBが本格緩和を始めてからは、立ち直りの兆候が見られている。BOEの緩和政策では、英国には住宅バブル復活の兆候さえ見られていた。

一方、独自の経済政策がないユーロ圏諸国の将来は危うい。EU政府懐疑派が最も多いとされるギリシャは、もはや離脱するには遅すぎる可能性あるのだ。政府は多くの負債を抱え、銀行預金は流出、インフラを含む多くの資産は外国資本のものとなった。また、外国で職を見つけられる知識層から順番に、海外に職を求めて出て行った。今、独立しても、これら失ったものを取り戻すには、どれだけの長い時間がかかるか想像もつかない。

スペインも15歳―24歳の半数以上が失業してから4、5年経っているので、この損失を取り返すのは大変なことだ。この世代そのものは取り返せないかもしれない。それでも、まだ体力があるので、ギリシャのようになる前に損切りする必要があるのではないか?

ギリシャもスペインも、今は立ち直りの兆しが見えているので、こうした私の見方を、行き過ぎたものだと感じる人は多いと思う。私も、ECBが緩和政策を続ける限り、問題は顕在化しないと見ている。しかし、緩和政策はいつか終わる。何らかの理由で、ドイツが緩和政策を必要とし続けることがない限り、いつか終わる。

イギリス人がどうしてEUを離脱したのか? ポピュリズムや騙されたなどと、まるでイギリス人の能力が劣るかのような解説などしていないで、経済政策がないというユーロ圏諸国の大問題に、もう少し関心を持って貰いたいものだ。

この深刻さが分からないと、日本経済のことも分からず、大きな力に振り回されるだけに終わることだろう。(おわり)

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矢口 新

独自テクニカルで『相場のタイミングを捉える』 矢口 新

大学卒業後、国内外の大手証券会社にて為替、債券のディーラー、機関投資家セールスを勤めた後、株式会社ディーラーズ・ウェブを創業(2002年5月~2013年5月)。2013年4月まで同社代表取締役社長。