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Q&A:ギリシャで今後起こると予想されるシナリオ

【著者】

ギリシャで今後起こると予想されるシナリオや為替市場への影響などを解説いただくことは可能でしょうか。銀行の営業再開、株式市場オープンとなる月曜日からの動向、IMFへの返済やEFSFの債務、ユーロ圏離脱やドラクマの使用再開など、、、今回のギリシャ情勢は個人の知識では分かりかねる部分が多く、不透明さが増すばかりです。

A以前からの私のコメントやセミナーをご記憶の方々はご存知かと思いますが、私は一貫してユーロは長期間継続不可能と申し上げています。

私はギリシャの問題は、本質的にギリシャ固有の問題ではなく、ユーロ構成国に共通の問題だと見なしています。つまり、ユーロという統一通貨、統一金利、量的緩和などの金融政策を司るのは欧州中銀で、個々の国に現在も存在する中央銀行ではないからです。

政治、政策は優先順位です。日本のある元官僚は身も蓋もなく「えこひいき」という表現をしています。一国の政治、政策でさえ、本質が「えこひいき」なのですから、国際政治ではもっと露骨にそれがなされています。

更に大きな問題は、実質的にユーロ圏の金融政策を司る中核国が、財政資金や年金、社会保障基金は各国個別だと主張していることです。ある国の資金が豊富な反面、他の国は財政難に喘いでいます。その一方で、財政規律だけは共通ですから、税収が落ち、財政赤字が膨らんだ国々には、緊縮財政が強いられています。この「政策が強いられる」ことで、固有の財政政策もなくなりました。

つまり、ユーロ圏の国々は通貨金融政策を欧州中銀に委ね、財政政策がコントロールされることで、経済政策の柱を2つとも失くしてしまいました。例えて言えば、日本国内のある県の税収が落ちたので、財政健全化のために公務員削減、給与削減、公共投資削減、年金支給減額などを強いるようなものです。これではますます景気は後退し、失業率は高まり、税収が減ることになります。事実、ギリシャではそのようになっています。

こうなると、ユーロ圏諸国の経済はいかに欧州政府に「えこひいき」して貰うかで、明暗が分かれます。リーマンショック後に、ユーロ周辺国の当時の首長が相次いで解任され、親ユーロ政府と呼ばれるユーロ官僚的な首長に代えられたのはそのためです。

ユーロ官僚的な首長のもとで、ギリシャはIMFから見ても、削減できる歳出は削減し尽し、残るはすでに大幅カットされている年金支給を更に引き下げるところまできました。そこで、困窮したギリシャ国民はユーロ官僚的な首長に愛想をつかし、一部の日本の評論家がいうところの「素人政治家」チプラス政権に国の運命を委ねました。

ところが、ギリシャ国民はこれ以上の緊縮財政は認めないものの、IMFなどからの支援は必要だとし、ユーロ圏には留まりたいとするので、チプラス政権は国民の真意を知るために国民投票が必要だと判断しました。チプラス首相は「緊縮財政反対」を謳って首相になったのですから、国民に「反対投票」をと呼びかけるのは当然で、今更「賛成」と言われては、梯子を外されることになります。

ここまでのところ、私にとっては理解の範囲内の自然な流れなのですが、「素人政治家」、「ギリシャ、ユーロ離脱を選べば自殺行為」などと、メディアの大勢の意見は、チプラス政権に批判的です。また、世論調査でも、ギリシャ国民の多くがユーロ残留のためには、年金カットでも仕方ないと見なしていると報道されています。

また、「ギリシャがアルゼンチン危機から学ぶこと」と題したコメントを目にしましたが、独自の経済政策がないギリシャと、完全独立国であるアルゼンチンとを同列に並べるセンスが私には理解できません。

ギリシャ国民のほとんどすべては緊縮財政には反対ながら、国際支援は必要だとし、大半はユーロ残留を望んでいるようです。このことは、チプラス政権が国民投票は「緊縮財政を問う」だけだと浸透させることができれば、「緊縮財政反対」が上回ります。一方、欧州政府が、実質的に「ユーロ残留を問う」ものだと説得できれば、しぶしぶでも「緊縮財政賛成」が上回る可能性が高いのです。

つまり、いずれの場合でも、すぐにユーロ圏離脱やドラクマの使用再開などの可能性は低いとみていいと思います。

このことは「緊縮財政賛成」はもとより、「緊縮財政反対」となったとしても、これ以上の削減からは逃れることができるだけで、低迷する景気に対する対策が持てる訳ではありません。25%を超えている失業率に対して、雇用増につながる政策が持てないだけでなく、社会保障費の負担を抱え続けることになります。

ドイツが欧州中銀を握った結果

この状況下での歳入増は期待し過ぎですから、支援金の元利金支払い期日の度に、今回のような騒動を繰り返すことになります。その度に、ギリシャの銀行預金は流出し、国力が脆弱になっていきます。ユーロ圏にいる限り、このスパイラルから逃れることはできません。

ユーロの長期トレンドは下向きです。唯一の望みは、このユーロ安による恩恵と、欧州中銀による量的緩和の波及効果です。このことは、ドイツなどの景気回復、インフレ懸念台頭などにより、欧州中銀が金融引き締めに入った時に、ギリシャはさらなる試練の時を迎える可能性が高いことを示唆しています。

私は、ギリシャがユーロ圏を離れ、他の生き残り策を模索することは、いわば「損切り」だと考えています。過去の判断の間違いは、痛みを伴っても修正すべきものなのです。

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矢口 新

矢口 新

大学卒業後、国内外の大手証券会社にて為替、債券のディーラー、機関投資家セールスを勤めた後、株式会社ディーラーズ・ウェブを創業(2002年5月~2013年5月)。2013年4月まで同社代表取締役社長。