FXコラム

ユーロとギリシャ問題 【その4】

【著者】

その3:PIIGS諸国は、本当に豚野郎か?

その4:ギリシャの次はスペインか?

2007年までドイツの失業率は独仏PIIGSで最も高く、2006年第1四半期の失業率は12.1%、失業者数は500万人を超えていた。それが、2015年2月には失業率が6.5%にまで低下、失業者数は281万人にまで減少した。

転機が訪れたのは2007年から2008年にかけてだ。つまり、サブプライムショック、リーマンショックで、ドイツは生まれ変わった。他のユーロ圏諸国が困窮を極めるようになったのと対照的に、2005年からの10年間で見事に失業者をPIIGSに輸出することができたのだ。私は、それが奇跡でも何でもなく、金融政策を握っているための当然の帰結だとみている。

失業率

世間で理解されているように、本当にドイツ人だけが優れているのならば、2006年までの低迷が説明できない。また、他の諸国が能力や勤勉さで劣っているのなら、2007年までの好成績が説明できない。冷静に数値を追っていけば、2007年8月以降のユーロ圏の金融政策がドイツ以外の諸国にとっては間違いで、2008年末から明らかとなった景気後退期に欧州政府がPIIGS諸国に強いた緊縮財政が間違いだったことが分かる。
ドイツ人が最も優れているのは政治力なのだ。

そして、ギリシャなどの預金は為替リスクのないドイツに大量に流れ、ギリシャの多くの企業や資産がドイツや中国に買収された。ギリシャは多重債務国となり、ドイツは債権国となった。

2000年からのユーロドルのチャートだ。下げ足が急だっただけに、このところは反発しているが、ユーロの構造問題が解決しない限り、0.90を割り込む可能性が高い。

ユーロドル月足

ユーロの成功は、通貨統合以前から、通貨・金融政策統合から遅くない時期に、財政、年金、社会保障費などの統合が必要だと言われてきた。財政の統一なしには、例えば、日本が大震災後に税収が落ちた地域に行ったような復興予算が組めないからだ。現在のユーロ圏では、自然災害で税収が落ちても、緊縮財政を強いられることになる。

とはいえ、財政の統一はここ数年さらに発言権を増したドイツが頑強に反対しているため、話題にも上らなくなってきた。

ギリシャは自らの手でユーロから離脱する力さえ失い、資産や資金が流出し続け、このまま衰退していく可能性が高い。経済政策なしにこの苦境を脱することができる可能性は低い。

ドイツにとってはギリシャがユーロ圏にいてくれることで、図らずも通貨安政策と同様の効果が得られている。また資金が流入し、国債利回りがマイナスとなることで、資金調達が利益となる離れ業も可能となった。

他のPIISは、現状ユーロ安と金利安の恩恵を受けて一息つけている。
しかし、世界的な景気後退、エネルギー価格の高騰、ユーロ高、金利あるいは国債利回りの上昇などがあれば、経済政策を持たずに乗り切ることは難しい。

特にスペインの高失業率、特に15歳ー24歳の失業率が5年以上も50%を超えていることは、国力を根底から揺るがせている。社会保障費支出が膨大なだけでなく、就業経験を欠如した世代が広がっているからだ。

ギリシャの次はスペインの可能性が高いが、大国だけにキプロスやギリシャのようにはいかない。地政学的リスクとなる可能性もあるかと思う。
(終わり)

ユーロとギリシャ問題 その1~3

その1:ギリシャ問題は、ギリシャだけの問題か?
その2:米英の利下げと、ユーロの利上げ
その3:PIIGS諸国は、本当に豚野郎か?

【みんかぶマガジン】矢口氏のコラム
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矢口 新

矢口 新

大学卒業後、国内外の大手証券会社にて為替、債券のディーラー、機関投資家セールスを勤めた後、株式会社ディーラーズ・ウェブを創業(2002年5月~2013年5月)。2013年4月まで同社代表取締役社長。