ギリシャの選択肢

ギリシャは国民投票で、国際債権団が要求する緊縮財政案を、圧倒的な反対多数で否定した。投票直前まで、ギリシャの大手新聞を含めたメディアは「反対」することのリスクを強調してきたが、国民は自らが選んだチプラス政権を改めて支持した形となった。

この結果、ギリシャ問題は不透明になったと論評されているが、これまでと本質的に変わった訳ではない。はっきりしたのは、チプラス政権は国民の意志を代表していることだ。これで、政権の暴走といった批判や、素人政治家といった揶揄を封じ込めることができるようになった。

ここで、ギリシャの選択肢がA、B2つあることがはっきりした。

ユーロ残留:

これは債権団とのタフな交渉が継続することを意味する。

債権団が持つカードは、支援金だ。一方のギリシャの主なカードは、1、国民の意志、2、ロシア、3、ユーロ崩壊といったところだろう。

1、ギリシャ人は銀行預金の事実上の封鎖といった兵糧攻めに対しても、緊縮財政は受け入れられないとした。ここで、債権団が何らかの譲歩をしない場合には、ロシアと手を組むか、ユーロを離脱する可能性が出てきたのだ。

2、ロシアとはすでに天然ガスのパイプラインの施設に合意し、11月には更なる経済協力の話し合いを持つことが決まっている。これは米国にとっては許し難い「離反」だ。

米国は原油・天然ガスの生産で既にロシアを抜き、世界一の生産国となっているが、売り込む市場がない。欧州市場は古くからのロシアの市場だ。ロシアはまた、距離が近いことを武器に、日本市場も中東から奪う動きを見せていた。そこで米国は、ウクライナでの武力クーデターを支援し、クリミア統合という反撃に出たロシアを経済制裁することで、欧州と日本の市場をいったんロシアから引き離すことに成功した。

また米国は、米ソ対立時代の遺産である対ソ軍事同盟NATOを、ウクライナを事実上取り込むことで、かっての東西ドイツ境界線から、ロシアの西側国境線にまで拡大した。ロシアが警戒するのは当然で、もともとロシアの領土で、今も軍事基地があるクリミアを、「敵国」傘下となったウクライナに残すはずもない。チェスや将棋、囲碁の手ではないが、こう打てばこう来るという定石通りに、対ロ経済制裁に成功したのだ。

ここで、ギリシャが離反すると、天然ガス、軍事面の両方で、米国の計画に破綻が生じることになる。このことは、一方のロシアにとっては、国民の意志を代表したギリシャ政府支援が最優先事案の1つになったことを意味している。

3、ギリシャ問題の本質は、ギリシャの諸問題に対応した、固有の経済政策が持てないということだ。経済政策の2本の柱である通貨・金融政策を欧州政府が握り、もう1本の柱である財政政策には、画一の財政規律を嵌めることで、事実上、国際債権団が握っているのだ。

これはギリシャに限らず、ポルトガル、イタリア、アイルランド、スペインなど、他のユーロ圏諸国の共通の問題だ。フランスですら例外ではない。ここで、ギリシャが離脱し、仮に景気回復を成し遂げると、ユーロ崩壊に繋がりかねない。

この3つのカード、特に2のカードは相当に威力があると、私は見ている。

一方、ギリシャにとって、ユーロ残留のリスクは、1、固有の経済政策の不在が続くこと。2、債務返済期限が来るたびに今回のような問題を繰り返すこと。3、国民、資産、産業の流出だ。

ギリシャや他のファンダメンタルズが悪化した国々は、対ロシア制裁で悪化したドイツ経済に対応したECB金融緩和政策により、当面は息がつけている状態だ。

このままドイツが低迷してくれれば、金融緩和は続き、ユーロ圏全体が恩恵を受ける。

ギリシャpiigs

問題は、ドイツの景気が回復するか、インフレ懸念が生じた時だ。過去の例を見れば、ECBを事実上運営しているドイツは他国の状況には関係なく引き締め政策に転じる可能性が高い。以前より、ドイツの相対的な力が増しているため、尚更だ。

ECBが引き締めに転じるまでに、ギリシャがドイツに先んじて歳入を増やし、支援金を完済することができなければ、支払期限が来るたびに今回のような騒動となる。

その度に、海外に職を得られる知識層や富裕層が流出、預金流出、資産・産業は他国に買われ、国力は低下し続けることになる。

、ユーロ離脱:

一方、ユーロ圏を離れ、独自の通貨を持つと、一時的には悲惨だが、過去において通貨危機を迎えた国々が、比較的短期間で回復したように、ギリシャも回復すると思われる。

ギリシャはミラノ、ベルリン、クリミア、エルサレム、カイロなどへほぼ等距離の位置を占め、黒海の入口を塞ぐ位置にあることから、中東、東地中海随一の軍事上の要地だ。ギリシャと関係を深めたい国々は多い。

また、古代文明、エーゲ海などを抱える世界有数の観光地だ。通貨価値が半分、4分の1になることは、決して悪いことばかりではない。

Bギリシャは生き残れるか

【みんかぶマガジン】矢口氏のコラム
最新記事:16/12/5「イタリア国民投票の焦点
矢口 新

矢口 新

大学卒業後、国内外の大手証券会社にて為替、債券のディーラー、機関投資家セールスを勤めた後、株式会社ディーラーズ・ウェブを創業(2002年5月~2013年5月)。2013年4月まで同社代表取締役社長。