インフレ税

政府は2020年にはプライマリーバランスを黒字化するとしている。プライマリーバランスが黒字とは、国債の発行に頼らずにその年の国民の税負担などで国民生活に必要な支出がまかなえている状態を意味する。

財務省の資料を見ると、日本政府のプライマリーバランスは1975年度以来一貫して赤字だ。そして、税収が60兆1598億円と最大だった1990年度からの4年間を除いては、特例公債(いわゆる赤字国債)を発行することで、その場凌ぎを行ってきた。それで国の借金残高が1000兆円を超えてきた。世界的にも突出し、問題視されている借金残高を減らすには、まずは年度ごとの赤字をなくすことが肝要だ。

プライマリーバランスを黒字化するには、歳出を減らすか、税収を増やすか、それを同時に行うかしかない。1990年度までは税収が伸び続けたが、歳出の伸びに及ばずに赤字が続いた。1990年度以降は、税収が減って歳出が伸びたために大赤字となった。そのため税収を増やすための試みとして、1997年度には消費税率をそれまでの3%から5%に引き上げたが、かえって税収が減り、赤字が更に拡大した。

参照:景気と、税収と、株価
http://money.minkabu.jp/49018

そこで登場したのが、黒田日銀によるインフレ政策だ。米連銀の金融政策は雇用の拡大と、物価の安定の2本が柱だが、日銀の政策は消費者物価を2%程度で安定させるという1本柱だ。つまり、雇用対策などは政府の仕事で、黒田日銀の仕事ではないというスタンスだ。インフレ政策は別名「インフレ税」という。

「インフレ税とは、実際に税金が課税されるわけではないものの、インフレーション(インフレ)の進行によって民間が保有する貨幣価値が実質的に目減りして、実質的に民間から政府への所得移転が起こることをいいます。

政府は貨幣の発行特権(シニョレッジ)を持っていますが、財政赤字を埋めるためにこれを乱用することになれば、インフレとなって民間が保有する貨幣の価値が下がり、その分、財政赤字を抱える政府等の債務は目減りします。また、インフレになっても実物資産は目減りしないので、インフレ税のことを通貨保有税と呼ぶ人もいます。第一次大戦後のドイツや第二次大戦後の日本などは、こうした貨幣の大量増発による激しいインフレで、国債の価値が暴落し民間から政府への大幅な所得移転が起こりました。
わが国における現在の調整インフレ政策あるいはリフレ政策も、インフレターゲットの設定によるデフレからの脱却を目的にしていますが、巨額の累積財政赤字解消を減殺するという効果も考えられます。」

参照:金融用語辞典
http://money.infobank.co.jp/contents/A200079.htm

黒田日銀の金融政策が米連銀のように、雇用の拡大と物価の安定の2本が柱であれば、景気後退が確実な消費増税には消極的であったと思われる。黒田日銀の金融政策がインフレ政策を含めた「財政再建」一本槍であれば、これまでの黒田発言は一本の筋が通ったものとなる。とはいえ、消費増税もインフレ税も、政府の赤字を国民が埋めるというものだ。

上記参照のグラフを見ても分かるが、税収60兆円確保は容易ではない。だとすれば、100兆円近い歳出を削減する努力が必要だ。それ以外に巨額の累積財政赤字を減らすには、相当程度の貨幣価値の下落が必要だ。預貯金、債券はその価値を大きく損なうことになる。

私見では、安倍政権は裁量権拡大の大きな政府志向、黒田日銀は財政再建一本槍のようだ。雇用市場の改善には見るべきものがあるが、預貯金、債券価値の目減りは避けられないかと思う。米株に続き、独株や英株も史上最高値を更新してきた。インフレ政策が続けば、日本株も最高値を狙えると見ている。

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矢口 新

矢口 新

大学卒業後、国内外の大手証券会社にて為替、債券のディーラー、機関投資家セールスを勤めた後、株式会社ディーラーズ・ウェブを創業(2002年5月~2013年5月)。2013年4月まで同社代表取締役社長。