注目PickUp

金融政策に限界。では、どうすれば?

【著者】

米国が2008年、2009年から始めた超緩和的金融政策は、2011年9月までが最も効果的で、少なくとも2、3年前までは、大きな効果を発揮していた。

参照図:
金融緩和と効果

ところが、その緩和政策が過剰設備を産み、また、ゾンビ企業の「生きても、死んでも」ない、浮かばれない状態を長引かせている。中国だけではない、米社債の平均格付けがBBに低下、いわゆる、ジャンク級となった。2008年、2009年の平均格付けすら下回り、15年来の低水準となる。S&Pは債務不履行率が今後上昇すると見ている。

これは金融緩和政策により、米国債のなど高格付け債券の利回りが低下、高利回りを求めて、投資家が信用リスクを取り始めたことと、低格付け企業にとって低金利での資金調達が容易になったことが要因だ。特に、2012年以降は、低格付け会社による債券発行ラッシュが起き、全体の平均格付けを引き下げた。S&Pによれば、この時期のシングルBの発行企業の75%は、初めて資本市場での資金調達ができた。

また、世銀による世界経済の成長率予測は2016年に2.9%となっているが、世界貿易の縮小傾向は続いている。

一方で、富裕層の資産はますます増加し、貧富格差の拡大は留まるところを知らない。

世界には多くの国々があり、富裕層が置かれた状態も千差万別だろうから、極端に単純化して、なぜ貧富格差が拡大するかを考えてみる。

「起きて半畳、寝て一畳、天下取っても二合半」という言い回しがある。人にとって本当に必要なものはささやかなもので、どんなに贅沢しようにも、胃袋の大きさには限界があるというものだ。となれば、生きるコストというものに、貧富の差はそれほどない。

100万円の収入に税金が30万円かかり、生きるコストが50万円だとすれば、20万円が残る。それで尊厳のある生活を求めると、ほとんど残らない。それでも、70万円は広い意味の消費にまわる。

一方、1億円の収入に税金が3000万円かかり、生きるコストが同じ50万円だとすれば、6950万円が残る。ここで、贅沢の限りを尽くして、コスト込みで7000万円を投資、消費すれば、経済に対する貢献度は同じだ。

そうでなく、1億円の収入の人が収入100万円の人の「たった10倍しか」使わなければ、700万円の投資、消費に留まり、残る6300万円は蓄財に回る。貧富の差は広がり、経済は停滞する。これが現実に起きていることではないか?

貧富格差が世界の地政学的リスクも高めている。これは失業者の増加や99%のデモといったマクロ的な話だけでなく、ミクロ的な部分でも真実だ。一例を挙げれば、旧ソ連、ロシアに根強い恨みを抱く、東欧出身の富豪が、ジョージア(グルジア)、ウクライナなどの不満分子に資金提供することで、政情不安を作り上げた。正義の味方なのかも知れないが、少なくとも地政学的リスクは高まり、住民の生活の質は落ちている。この例の富豪以上の金持ちは、世界にごまんといる。

参照:国家よりもお金持ちな「世界の富豪20名」

多くの国々の政情不安で、「どこにそんな資金が?」と考えれば、疑わしいものはいくらでもある。今後を考えれば、日本だけが例外だとも言えない。つまり、一部の大富豪たちは、世界の富の私物化から、世界そのものの私物化に関心を移しているとも言える。

私は、市場経済の正しい運営が最も公正な富の分配に繋がると考えている。いわゆる、共産主義、社会主義などは、理論はともかく事実上は、役人が富を分配する社会なので、公正を望むことは難しい。

市場経済を正しく機能させるには、極端な累進課税が必要だ。貧困層へのシステム的で実質的な資金配分が、経済全体の最大の消費に繋がり、需要増から、現状の供給過剰を緩和すると見ている。

金融緩和政策が効果を持った時期は過ぎ去った。薬も過ぎれば毒になる。今後は、世界の格差是正により、中間層の底上げが必要だ。貧富の差の縮小が、安全面、経済面、文化面などを含む、世界住民全員の共通の利益に繋がると見ている。

【みんかぶマガジン】矢口氏のコラム
最新記事:16/12/5「イタリア国民投票の焦点
矢口 新

矢口 新

大学卒業後、国内外の大手証券会社にて為替、債券のディーラー、機関投資家セールスを勤めた後、株式会社ディーラーズ・ウェブを創業(2002年5月~2013年5月)。2013年4月まで同社代表取締役社長。