パウエル発言とシカゴ・カンファレンスの意義

【相場材料】米金融政策の枠組み
【評価】インフレの上振れや失業率の低下が従来以上に容認される可能性あり
【検討課題1】インフレ目標を一定期間の平均とすること
【検討課題2】時間軸や量的緩和などを平常手段とすること
【検討課題3】「ドット・プロット」など対話手段の改善

4日、パウエル米FRB議長の発言が利下げの可能性に言及したとして、市場が大きく反応しました。

パウエル議長は、シカゴ連銀のカンファレンスの開会に際して、貿易交渉の先行きが不透明であるとしたうえで、「(状況に応じて)適切に行動する」と発言しました。

パウエル議長はこれまで「忍耐強く(待てる)」と繰り返して、金融政策を一定期間維持する意向を表明していたので、「適切な行動」を市場が利下げと受け止めたのも無理はないかもしれません。

もっとも、この「金融政策の戦略、政策手段、対話方式」と題されたカンファレンスは、目先の金融政策ではなく、低金利・低インフレ下での金融政策の枠組みに関する重要な意味合いを持っています。

同カンファレンスは4-5日の2日間にわたり開催されます。FRBはこれまでも外部の有識者などを集めて会議を開催しており、同カンファレンスはその集大成にあたるものです。FRBはそれらの結果をもとに今年後半以降に新たな枠組みについて議論する意向です。

パウエル議長が指摘した課題は以下の3つです。
(1)物価目標が達成できていないことに対する対応
(2)金融政策手段の拡充
(3)市場との対話方式の改善

(1)については、物価目標を一定期間の平均とすることが検討されています。つまり、景気後退などで実際のインフレ率が目標を下回る期間があれば、その後は目標を上回るインフレ率を容認するということです。
現在に適用すれば、インフレ率が目標を下回った期間が長かったので、今後インフレ率が目標を上回ってもそれが当分の間は容認されるという意味合いになります。

(2)については、時間軸(フォワードガイダンス)や量的緩和(債券購入)などの手段を「非伝統的」とせずに平常手段として有効な組み合わせを検討しようということ。
とりわけ、金利の「ゼロ制約*」があるなかで、金融緩和が必要な場合にそれらの手段は有効ということでしょう。

(*)政策金利をゼロより下げることができないという意味。日銀やECBはマイナス金利を採用しているので、技術的には小幅のマイナス金利は可能ですが、弊害もあり大幅なマイナス金利の採用は事実上困難です。

(3)について、中央銀行は金融政策の透明性を高まる努力を重ねてきたが、それが対話方式として効果的だったか疑問が残るとしました。
例として挙げたのが、FOMC参加者の政策金利見通しを集計した「ドット・プロット」。議長いわく、「市場はその中央値をFRBの金融政策予想と受け止めているが、これは経済情勢が想定通りに展開したケースに過ぎない。FRBが想定外の経済情勢に対してどう反応するかという点が軽視される傾向がある」とのことです。

今回のカンファレンスは、FRBの金融政策の枠組みが大きく変わる可能性を示すものです。パウエル議長は今年後半以降に課題を検討するとしており、すぐに結果が出るものではないでしょうが、議論の行方を注目しておく必要はありそうです。

西田 明弘|マネースクエア チーフエコノミスト

西田 明弘

1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストを歴任。2012年9月、マネースクエア入社。チーフエコノミストに就任。現在、マネースクエアのWEBサイトで「ウィークリー・アウトルック」、「ファンダメ・ポイント」など多数のレポートを配信。動画コンテンツM2TV「マーケットViewチャンネル」に出演中。