Mind the gap -ギャップにご用心-

「マネーの価格(the price of money)」が経済に関するあらゆる事柄について重要な尺度だということを十分に理解している人は、金融市場関係者を含めて、極めて少ないようです。

 利益、成長、雇用、予算、インフレはいずれもマネーの価格の「派生」です。派生だからといって利益や成長などが重要ではないという意味ではなく、そのいずれもマネーの価格の働きを反映している(その逆はない)という意味です。
 マネーの価格とは、もちろん金利のことであり、エコノミストにとって未だに「ブラックボックス」である経済へのインプットを意味します。数世紀に及ぶ経済学研究にもかかわらず、そのブラックボックスはほとんど未解明のままです。
そのため、経済学は「憂鬱な科学」と呼ばれています。

 ここで、「長期低金利(lower for longer)コンセプト」について考えてみましょう。この概念は、日本が不況当時、金利、つまりマネーの価格を、意図的に長期間低水準で維持したことをその原点としています。超金融緩和は理論的には景気浮揚をもたらすはずですが、実際には景気低迷は長期化しました。マネーの価格が「限界資本コスト」に反映される必要があるからです。

 何十年も前のことですが、私は大学の経済学部で最初に 2 つの重要なことを学びました。
 まず、マネーの価格は限界資本コストが反映される必要があるということです。資金は本来、最大限のリターンを生む可能性がある投資や融資に回すべきです。しかし、実際には逆のことが起きていました。現在、仲間内の情報に頼り切ったネポティズム投資の時代は終わろうとしています。

2つ目は、「供給が需要を作り出す」というセイの法則です。それによると、需要は所与のものではなく、マネーの価格とイノベーションによって「創造」されるというのがフランスの経済学者ジャン=バティスト・セイによる供給モデルです。経済学において知るべきことはこの 2 つの概念だけで十分だと思います。このことを理解すれば 9 割のエコノミストよりも博識であるといえるかもしれません。

 2016 年第 1 四半期予測レポートでは、過去の経験を踏まえて、FRB が利上げサイクルに転じた際に、マネーフロー、クレジットデフォルト、市場にどのような変化が起こるかに焦点をあて、利上げ前後のギャップを探ります。

 金融界での私のキャリアは、(悲しいことに)1980 年代後半に遡ります。それ以降に FRB の利上げは 4 回ありましたが、私がトレーダーおよびエコノミストとして実際に経験した利上げは 3 回です(1997 年にも利上げがありましたが、0.25% の引き上げが一度だけでしたので、利上げサイクルとは言えません)。

2016 q1 essential trades.pdf

 取引画面を前にしているトレーダーの過半数は、マネーの価格、つまり金利が上昇する局面を一度も経験していません。当然、利上げがトレーディングに影響を与えるメカニズムについての理解も限定的です。
 私が金融界で働き始めた 1980 年代後半以降、マネーの価格と物価水準は全体的には一方向に下がり続けました。

金利とインフレ

要点整理

• 利上げサイクルで FRB は当初発表した政策を実行していく傾向がある。今回の利上げにおいて、市場は FRB の利上げへの意気込みを軽く見ようとしていますが、FRB は約束を実行するだけではなく、しばしば当初の発表以上の引き締めを行うことがある。

米ドル相場は、金利動向とは逆相関にあり、FRB が利上げに転じるとドル安の展開となる。

• 利上げサイクル全体で見ると、平均デフォルト率は 1~2% 以下から 10% 以上に増加している。「クリアアウト」が進み、不良資産の整理が増える。

デフォルト率

 利上げについて重要な点を指摘しておきます。それは、政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利の引き上げによって「異常な市場環境」に突然終わりがやってくることです。「異常な市場環境」とは、投機がはびこり、経済の特定分野に長期にわたって資金が流入するという歪な投資が蔓延する状況を指します。基本的に、それは経済動向が限界資本コストを正しく反映していない状況です。

 第1四半期は、市場の混乱とボラティリティの高まり、追加利上げに関する推測などを背景に、厳しいものになることが予想されます。しかし、一方で異常な市場環境から限界資本コストを重視するモデルへとシフトするという意味では、良いニュースだと言えます。資産の流れがより自由になり、市場実勢に基づいて配分されるようになれば、ネポティズムに依存した怠惰な投資家を除き、誰も損をしなくてすみます。

いずれにしても、FRB による利上げが、病気ではなく回復の兆しであることは間違いありません。
 現在は、政策金利 = 中央銀行金利であり、マネーの価格はここ 1 年半ほど上昇しています。下記はムーディーズ社のSeasoned Baa 社債利回り(投資適格の中で最も低い格付け)の推移です。

FRED

 第 1 四半期は市場ボラティリティに注目しながらリスクを追求する機会です。今年は市場にとってリセット期間となるため、そうした機会が増える見通しです。限界資本コストが上昇すれば、景気刺激策の導入を求める声が強まりますが、それが現実に起これば、恐らく 2016 年最大のサプライズとなるでしょう。

 「資本主義固有の欠点は、幸運を不平等に分配してしまうことだ。社会主義固有の長所は、不幸を平等に分配することだ」(ウィンストン・チャーチル)

安全な旅を祈ります。

クレジットギャップ

サクソバンク証券株式会社

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