FXコラム

多重債務から抜け出せないギリシャ

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ギリシャは、債券市場での資金調達が困難な状況で、チプラス政権は公的機関や地方自治体に対し、現金準備を中銀に移管するよう指示した。

マルダス財務副大臣は、同国公的機関の現金準備を中央銀行に移管する措置により、25億ユーロを確保し5月末までの支払いに充てたい考えを示した。同氏は当初、4月末の公務員給与、年金、その他の支払いに、まだ3億5000万─4億ユーロ不足していると述べていたが、その後、一部年金基金からの拠出で、不足は解消されたと述べた。

パパス首相府相は、債権団が要求する年金支給額の減額や観光地の島々を対象とした付加価値税増税について、引き続き拒否していく考えを示した。

ギリシャが5月末を乗り切っても、6月中には16億ユーロのIMFへ返済が支払期限を迎え、7月20日には35億ユーロのECBへの支払いがある。

ギリシャの債務危機はこの5年間で3回目となる。2010年、2012年、そして、2015年と、巨額の債務の支払いに合わせて、危機が訪れている。元利金の支払いに充てるだけの収入がないのだ。仮に債券市場での資金調達が可能だとしても、2年国債や3年国債では年率30%以上の金利を支払わなくてはならない。多重債務者が闇金から高利での債務を重ねるようなものだ。ギリシャ10年国債の利回りは4月22日に1.50%ポイント上昇し12.50%となった。

ギリシャ債利回り

一方で、ギリシャ2015年第1四半期の中央政府のプライマリーバランスは、主に公的支出の減少を背景に、17億4000万ユーロの黒字となった。中央政府のプライマリーバランス黒字額には、社会保障関連機関や地方政府の予算は含まれていない。また、2014年の公的債務残高は前年比約20億ユーロ減の3171億ユーロだったが、経済規模が縮小したためGDP比は2.1ポイント悪化して177.1%になった。

これらのことが表しているのは、債権団の一見当然の要求は、ギリシャの成長力を弱め、債務地獄からの脱出を更に困難にしているということだ。まさに、債権団は闇金と同じ役割を果たし、ギリシャを追い込んでいる。

政府が破綻状態でも、民間に余力があればいいが、ギリシャの銀行預金残高は12月ー2月の3カ月間だけでも15%減少し、1405億ユーロと2005年3月以降で最低水準となった。これらの預金は主に為替リスクのないドイツに流れ、ドイツ国債のマイナス利回り、株価の高値更新の背景の1つになっている。

ギリシャ問題は、もはやギリシャだけの問題かのように見える。ドイツ国債だけでなく、スペインやイタリア、ポルトガルの国債利回りも低下している。22日の欧州債券市場でも、スペイン10年国債の利回りは0.08%ポイント低下し1.36%、イタリア10年国債の利回りは0.06%ポイント低下の1.39%、ポルトガル10年国債の利回りは0.08%ポイント低下で1.98%となった。このままギリシャがますます衰退し、ユーロから離脱しても、味の抜けたガムのように、誰にもほとんど何の影響も与えなくなるのは、時間の問題かもしれない。

10年債比較

とはいえ、私はギリシャの苦境の元凶を、ユーロに参加したことによる通貨・金融政策の放棄に見ている。ベルギーが債権者としてギリシャ問題の話し合いに加えて貰えないと不満を漏らしたように、ユーロ圏の金融政策はドイツとフランスで話し合っている。経済指標と通貨・金融政策の整合性から判断すれば、ドイツが牛耳っている。

このことは、ギリシャやキプロスの苦境は、経済の状況次第ではどこの国にも訪れるということだ。実際にECBの量的緩和をもってしても、フランスの失業率は過去最高水準からなかなか低下しない。恐いのは、仮にドイツにインフレ懸念が起きたなら、ECBは量的緩和を終了するどころか、サブプライムショック後のように、利上げする可能性すらあることだ。

ユーロ圏諸国がギリシャ問題を、ギリシャだけの問題と見ているとすれば、味の抜けたガムのギリシャはいずれ捨てられる。そして、次の甘いガムが探される。ユーロが財政統一を伴わない、通貨・金融政策だけの片肺飛行を続ける限り、次のギリシャが繰り返されると、私は見ている。

ところで、日本の公的債務のGDP比は246.4%で、プライマリーバランスの黒字化も見えていない。独自の通貨・金融政策を持つことに感謝したい。

【みんかぶマガジン】矢口氏のコラム
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矢口 新

矢口 新

大学卒業後、国内外の大手証券会社にて為替、債券のディーラー、機関投資家セールスを勤めた後、株式会社ディーラーズ・ウェブを創業(2002年5月~2013年5月)。2013年4月まで同社代表取締役社長。