FXコラム

ウクライナ情勢で知っておくべきこと ―1―

【著者】

FXコラム|2014/05/14

ウクライナで衝突が続くのに、米株は最高値更新

ウクライナ東部のドネツク、ルガンスク両州で親ロシア派勢力が5月11日に強行した地域の独立の是非を問う住民投票で、ドネツク州の親ロ派は同日深夜、約9割が「ドネツク人民共和国の独立を承認した」と発表した。ルガンスク州でも「承認」が大多数だと主張した。ハリコフは「ハリコフ人民共和国」樹立を宣言している。

米報道官は記者会見で、ウクライナ東部での住民投票を「認めない」とした。

ロシアのプーチン大統領と欧州安保協力機構(OSCE)のブルカルテル議長(スイス大統領)は12日、親ロシア派勢力が独立の動きをみせるウクライナ東部情勢について電話協議した。ロシア大統領府によると、OSCEの枠組みを通じて親欧米の中央政府と親ロ派との直接対話を強く促すことが重要との認識で一致した。

ウクライナ東部では衝突が続き、少なからずの死傷者も出ているのに、米株は連日で最高値を更新中だ。欧州株も軒並み上昇している。

私は以前に、ウクライナ情勢は大事には至らないだろうと述べた。

参照:地政学的リスク
https://fx.minkabu.jp/hikaku/fxbeginner/geopolitical-risk/

しかし、そう思っているのは私だけではなく、市場全体かのような値動きだ。もっとも直近5月のバンカメ・メリル調査では、最も大きなリスクとして、ウクライナをめぐる地政学的緊張が最上位を占めたようだ。

私がウクライナ情勢は大事には至らないと思う理由は少し長くなる。端的に言えば、旧ソ連の国内事情の延長だと見ているからだ。その点では、プーチン大統領の行動に違和感はなく、むしろ、オバマ大統領や、ヒラリー・クリントン前国務長官のプーチン=ヒットラー発言の方に違和感を覚える。なぜなら、プーチン大統領に、分離独立を求めるウクライナ東部住民を煽る理由は少なく、また逆に、なだめる力もないと思えるからだ。もっとも、米側発言の真意は十分に推測できている。

それはともかく、ここではウクライナ情勢で、是非とも知っておくべき最小限の知識だけを述べておく。

1991年3月のリトアニアの独立宣言を皮切りに、ソビエト連邦を構成していた15のソビエト社会主義共和国は91年末までに分離・独立した。ソ連は69年間で国家としてのその歴史を閉じたが、ロシアとウクライナの関係はもっと長い。そこまでは触れない。問題は、共和国の下位政府として、約2000もの自治共和国があったことだ。ドネツク、ルガンスク、ハリコフなども、自治共和国レベルであったかと思う。ソ連は最大2000もの自治共和国レベルにまで分裂する可能性があると、その当時に予言したロシア人の専門家もいた。

ここで問題なのは、特にロシアやウクライナなど、かってのロシア帝国の中心部では、歴史的に1992年まで、住民は市場経済も民主主義も体験したことがないことだ。帝政ロシア時代は貴族と地主が経済も政治も握っており、革命後は共産党幹部が仕切ってきた。2000もの自治共和国があっても、独立国の経済や政治を率いられる人材が2000人いただろうか? また、同時期の欧州ではフランス、イタリア、スペインといった古豪の国々が、1国による通貨金融政策を捨てようとしていた時期に、新興極小国への分裂は意味があっただろうか? それでもいくつかの自治共和国が独立宣言しているが、国際社会から黙殺された状態でいるらしい。

振り返ってみれば、自治共和国レベルへの独立は現実性がなく、言葉を選ばずに言うと、どこに寄りすがって生きていくかの選択肢しかなかった。そして、当面は15の共和国内での、ウクライナではドネツク、ルガンスク州などのような存在のままでいたのだ。まだ、22年余りしか経っていない。

そして、ウクライナでは旧共産党の幹部に加え、これまで迫害されて国外に移住し、市場経済のノウハウと全体主義的な社会の経験を併せ持つオリガルヒたちが帰国して、経済の、時には政治の運営を担った。(つづく)

関連記事:ウクライナがこじれると、円高に?
https://fx.minkabu.jp/hikaku/fxbeginner/ukraine-worse-yen/

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矢口 新

矢口 新

大学卒業後、国内外の大手証券会社にて為替、債券のディーラー、機関投資家セールスを勤めた後、株式会社ディーラーズ・ウェブを創業(2002年5月~2013年5月)。2013年4月まで同社代表取締役社長。