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悪夢、再びか?

【著者】

米連銀は政策金利を0.25%に据え置いた。また、2016年内の利上げ回数の見通しを、これまでの4回から2回へと引き下げた。1回につき0.25%ずつの引き上げが見込まれているので、年内1.25%への引き上げ予定が、0.75%までとなった。そして、世界経済の状況が米経済に与えうる影響を注視していくと述べた。

米連銀はサブプライムショック後に利下げを開始、にも関わらず、リーマンショックを引き起こしたことで、2008年12月に政策金利を0%にまで引き下げた。そして、2015年12月に0.25%に引き上げるまで7年間、米連銀創設以来の超低金利政策を維持した。それは今の0.25%でも継続中だ。

米国政策金利推移

また、2008年8月末には0.9兆ドル未満だった米連銀のバランスシートを、リーマンショック後に拡大、一時中断しながらも2014年末の4.5兆ドルにまで量的緩和を続けた。こちらも未曽有の資金供給と呼ばれているが、残高は維持したままだ。

FRBバランスシート

米連銀の2大使命は、雇用市場の安定とインフレ率の安定だと、繰り返し表明している。雇用の安定では2008年5月に300万人を超え、ピーク時には660万人を超えていた失業保険継続受給者が、2016年3月初めには222万5000人と、ほぼ3分の1に減少した。これは2、30年来の低水準となる。

失業保険受給者数

一方、インフレ率の目標は年率2%前後で安定させるとしている。昨日発表された2月の消費者物価指数は前月比-0.2%、前年比+1.0%だった。
変動の激しいエネルギーと食糧価格とを除いたコア指数は前月比+0.3%、前年比+2.3%だ。総合指数を押し下げた原油価格は2月中旬のダブルボトムから上昇に転じており、いずれは消費者物価指数に反映されてくる。

つまり、米連銀は2大使命を既に完遂している。ここで、連銀のバランスシートを未曽有の水準に維持し、政策金利を1%以下という超低水準に維持する正当な理由はもはやない。

実は、米連銀は利上げ、利上げと言いながら、ゼロ金利を維持してきた前科がある。早くも2010年4月には、米リッチモンド地区連銀のラッカー総裁は、FOMCは利上げ開始まで時間をかけ過ぎるリスクがあるとの見解を明らかにしていた。「今回の景気拡大における今後のリスクは、利上げ時期を待ち過ぎることにやや傾くだろう。わたしはこれについてかなり警戒している」と語った。

そして、米連銀が予定通り2011年6月末に量的緩和を中断した折には、米連銀の利上げ開始が2012年にずれ込みそうだと述べた。事実は4年近くずれ込み、一旦は0.25%引き上げたものの、これまでの経緯では、次の利上げはいつになるか分からない。悪夢、再びか?

これで、現在の世界経済の停滞、及び、金融市場の不安定に、米連銀の姿勢があったことが明らかになってきた。

米国は利上げができる。企業の資金は全体的には豊富で、2~3%の金利上昇には十分に耐えられると考えられるからだ。景気拡大サイクル7年目という遅すぎる利上げのリスクは出ているが、8年目、9年目、あるいは景気後退サイクルに入ってからの利上げよりはずっといい。

過度な資金供給は、随所での資産バブルと共に、過剰設備を産み、デフレを誘発する。また、主要国で最も強い経済の米国の金利がほぼゼロに張り付いていると、そこより弱い経済の国々はマイナス金利の導入を検討せざるを得なくなる。つまり、米国という金融市場の大黒柱が優柔不断で、目標を達成しながら緩和政策を終えることができず、現状維持しかできないことが、世界経済と市場を混乱させているのだ。

そう思えてきたのだが、どうだろう?

矢口 新

矢口 新

大学卒業後、国内外の大手証券会社にて為替、債券のディーラー、機関投資家セールスを勤めた後、株式会社ディーラーズ・ウェブを創業(2002年5月~2013年5月)。2013年4月まで同社代表取締役社長。