原油価格下落の要因と、今後。

【著者】

原油価格の下落が止まらない。2008年7月に最高値をつけてからのから急落以降、米WTI先物価格が英北海ブレント先物価格をずっと下回ってきたが、6日は一時的に北海ブレント価格が下回り、共に34ドル台前半と、11年来の安値をつけた。

原油価格は1970年代のオイルショックまで、米石油メジャーが決めてきた。スタンダード石油などの石油メジャーは、世界に石油という最も貴重なエネルギー源を供給し、その価格決定権を握ることで、米国の世界覇権に貢献した。

WTI先物は、一時的にOPECに奪われた原油価格の決定権を、「市場」に取り戻すために上場したと言われている。しかし、WTI現物の取引が少ないことから、投機筋による高値、安値への行き過ぎが見られ、北海ブレント先物が世界の原油価格の指標と見なされるようになってきた。そのブレントとWTIの価格差がなくなったことは、必ずしも投機的な原油安とは言えないことを暗示している。

原油価格下落の原因としては、以下の要因が挙げられる。

1、買われ過ぎの反動。原油に限らず高価格は増産を促すので、バブル的な高価格は、その後の長期的な低価格の引き金となる。

2、米加によるシェール原油が産油市場に大口の供給者として参入したこと。米国はまた原油の輸出も再解禁した。

2014年後半からの原油価格の急落で、ようやくシェール原油の新規採掘は急減してきたが、コストの安い大油井の増産で、生産そのものは1月1日時点で日量922万バレルとほとんど減っていない。

3、ロシアの増産。米国主導の経済制裁、原油価格の低迷にも関らず、ロシアの原油生産は12月末時点で前月比0.4%増、前年比1.5%増の日量1083万バレルと、旧ソ連時代の産油量を1国だけで維持している。

他の旧ソ連諸国を合わせると、大幅な増産となる。

4、OPECの増産。1970年代の石油危機以降、サウジアラビアはOPEC内のスウィング・プロデューサーとして、加盟各国の増産、減産に応じた生産調整を一手に引き受け、世界需要に合わせたOPECの原油供給を維持してきた。

しかし、非OPEC諸国の増産が止まらず、原油価格の最大の下落要因となってきたことから、もはやサウジ1国の生産調整が意味を持たなくなってきた。サウジは事実上、生産調整役を放棄、OPECの原油生産は過去最高水準にある。

5、世界的な景気減速。世界最大の原油輸入国、中国などの需要減退。

6、地球温暖化対策のための、化石燃料離れ。

7、ここまでは、昨年までの下落要因だが、ここに、サウジアラビアとイランの対立が加わった。

産油国同士の紛争では、通常は供給不安から原油価格は上昇する。とはいえ、上記の原油需給の状況は、相当に構造的な価格下落要因だ。加えて、両国共に経済的な余裕がないことから、実際に大油田が破壊されるなどの供給不安が起きるまでは、増産あるいは安売りしてでも資金を確保することが考えられる。事実、6日はサウジアラビアが欧州向け原油価格を引き下げたことも、原油先物下落の要因となった。

先物市場は、もともと生産者の価格下落リスクヘッジ目的で発展した。価格が高い時に売りヘッジしておけば、安心して生産できるからだ。このことは、これだけの供給者が揃っている場合、原油価格の上昇局面では、大口のヘッジ売りが出てくることが予測される。

また、需要者は価格が安い時に買いヘッジすることができる。例えば、電力会社などは、先の需要を見越して安価な原油先物を買っておくことができるのだ。

1の要因として挙げた「高価格は増産を促す」ことは、低価格では減産を促し、需要を喚起することを意味する。世界はまだカネ余りだ。何かを買う需要はある。2016年に原油価格の高騰までは見込めないが、底打ちする可能性は十分にあるかと思う。

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矢口 新

独自テクニカルで『相場のタイミングを捉える』 矢口 新

大学卒業後、国内外の大手証券会社にて為替、債券のディーラー、機関投資家セールスを勤めた後、株式会社ディーラーズ・ウェブを創業(2002年5月~2013年5月)。2013年4月まで同社代表取締役社長。