FXコラム

IMMのポジションと、円急落

【著者】

ドル売り・円買いポジションの巻き戻し

4月22日金曜日、円は主要31通貨全てに対して下落した。
ドル円(USD/JPY)は安値109円26銭から、高値111円80銭まで上昇、ドル高近辺で引けた。直接の材料は、日銀の追加緩和期待だ。

このドル円の急反発を、シカゴIMM通貨先物市場における、ドル円ポジションの推移から解説してみよう。ちなみに、この数値は次のページで毎週、更新されている。
参照ページ:シカゴIMM通貨先物ポジション推移

この資料をもとに、私は以下のグラフを作成した。数値発表が現在の形式となった2012年5月から、直近4月19日までの数値だ。グラフ上部の黄色線が円ロング、茶色線が円ショート、シカゴの取引はドル建てなので、どちらの数値も対ドルとなる。そこで、緑色線がドル円のネットポジションとなるのだが、2016年初頭以来、ドルショート・円ロングが拡大していることが分かる。

参照図:
シカゴ

グラフ下部は、同時期のドル円レートの推移だ。右肩上がり、右肩下がりなどと言われるトレンドは、貿易実需や長期投資家の動向を反映する。一方で、ドル円レートの短中期の波動は、緑色線に見られるシカゴなど投機筋のポジションをよく反映していることが分かる。つまり、年初来円高となった原因の一部は、投機筋の記録的な円買いを反映していた。その円買いは、少なくとも先週の前半までは続いていた。

ところが、ドル円レートの年初からの部分を拡大してみると、投機筋の円買いにも関わらず、ドル円はいったんの底打ち感を強めていたことが分かる。

参照図:
ドル円

ドル円は4月7日に安値107円66銭を付け、翌週11日に63銭まで売られるが、その日は、ほぼ寄引同事線となる。また、安値を3銭だけ更新したとはいえ、その後の展開次第ではダブルボトムと見なせる形となる。つまり、売り込んでも、レートが下げなくなってきたのだ。

翌週18日は再度、下値を試しに行くが、安値は107円84銭と、前の安値から切り上げた。この時点でもドルショート・円ロングのポジションは拡大中だが、チャート的には更なるドル安が見込めなくなってきており、次週の米連銀と日銀による金融政策発表を前に、週末までに膨大なポジションを少しでも軽くしておきたい気持ちが起きるのは自然だった。私などは、この展開で、そういう気持ちが起きないディーラーを危ういと見なす。

シカゴ筋が少なくとも19日まではドル売りで攻めているのに、ドルが下げなくなったのは何故か? 言うまでもないことだが、シカゴ筋だけが市場参加者ではないからだ。実需もいれば、長期投資家もいる。また、投機筋でも金融機関のディーラーは、あまりIMMを使わない。

現状の貿易実需はむしろ円買い超だが、先週は長期投資家が外貨投資を拡大するとの報道が目立っていた。郵貯、生保、損保などだ。これは中長期的な円売りを示唆する。仮に、そういった人たちが動かなくても、上のローソク足チャートを見ていれば、最速で12日か13日に、遅くても20日には、いわゆる谷越え確認の判断がついていた。そこに出たのが、「貸出支援基金の金利をマイナスにする」かもとの報道だった。

日銀の追加緩和期待

円高の進展に熊本の震災、日銀の危機対応能力に対する疑念が浮上している今、何らかの追加緩和措置の決定は不可避だという声が高い。

そこに22日、日銀は27ー28日に開かれる金融政策決定会合で、「貸出支援基金による現在0%の貸出金利を、マイナスにすることを検討している」と報道された。現状の政策金利とされている、当座預金の一部に適用している0.1%のマイナス金利に加える、追加緩和措置だ。

これには先例がある。ECBは3月10日の理事会でマイナス金利を0.3%から0.4%に拡大。同時に、これによる銀行収益の圧迫懸念に配慮し、ベンチマーク対比で貸し出しを増やした銀行に、その程度に応じてECBからの貸し出しに最大マイナス0.4%まで金利を付与することを決めた。ムチが効きすぎることを恐れ、アメも与えることにしたのだ。

ユーロ圏では、預け入れ金利も、貸出し金利も一部マイナスになっている。貸し手が金利を支払い、借り手が金利を受け取っている。このようなことは、通常の生活では起こり得ない。人間活動の本質的な部分と相容れないからだ。これに似たようなものを目にしたことがある。優生保護法や労働者の強制移住、「一人っ子政策」などだ。つまり、人間生活の上に「国家」があるという、強制力なしにはあり得ない政策なのだ。

マイナス金利という強制力をつかって、どこにムチを入れるか、どこにアメを与えるかは、国家が決める。今の市場経済は大きな危機に晒されているといえる。もっとも私は、主要国の中央銀行が権力を誇示するために、マイナス金利政策や超低金利政策の継続を行っているとは思っていない。方向転換する勇気がないだけだと見ている。

現状のデフレ脱却には減税が必要だ。しかし、それは中央銀行の仕事ではない。だとしても、マイナス金利政策という金融市場のシステムを否定するような政策は、もっと中央銀行の仕事ではない。マイナス金利で、どうして金融市場、金融機関の健全性が保てると言うのか?

追加緩和のオプションとして、量的緩和拡大は難しく、ETFの購入枠を現在の年間3.3兆円から7兆円~10兆円に拡大するという見方が増えている。これも市場を歪めるという指摘はあるが、市場機能を否定するよりは、よほど健全だといえるだろう。

チャートを見る限り、米日の金融政策決定会合までに、ドル円レートは113円80銭~114円90銭のどこかに達する可能性が十分にある。その後の展開は、日米当局の行動を見てから考えて、遅すぎることはないかと思う。

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矢口 新

矢口 新

大学卒業後、国内外の大手証券会社にて為替、債券のディーラー、機関投資家セールスを勤めた後、株式会社ディーラーズ・ウェブを創業(2002年5月~2013年5月)。2013年4月まで同社代表取締役社長。