FXコラム

ギリシャ問題に関連した質問

【著者】

1.矢口先生は先ず「ECBの利上げと利下げのタイミングは完璧な政策ミス」とおっしゃり、次に「ものすごく恐ろしい実験」とユーロの政策について表現されていました。また「ギリシャの債務コストはヤミ金並み」とも言われていましたが、以上のような先生の発言からその個人的見解は公のあれだけ大きい規模の経済共同体が取っている行動としては極めて異常だとお考えという理解で宜しいでしょうか?

実のところは、私はECBの利上げを政策ミスだとは思っていません。政治、政策は優先順位ですので、ドイツの状況を優先しただけだと考えています。

「ものすごく恐ろしい実験」というのは、ギリシャなど、優先順位の低い国々にとって、事実上の経済政策なしで、それらの国の経済はどうなるのかという実験になっています。

ギリシャ国債の利回りは19日に0.24%買い戻され、10.74%になりました。18日の終値は10.98%だったという意味です。ギリシャ国債の利回りのうち19日時点で1番高いのは1年余りの年限で、23.00%にもなります。つまり、現時点でギリシャ政府が満期1年の借金をするとすれば、23%内外の金利を要求されることになります。それで、私は闇金並みと表現しました。

ECBの行動は、国際機関にとって、異常でも何でもありません。国際機関や大国はほぼ常に自国を優先した政策を採り続けています。世界各地で過去も現在も頻発している軍事行動に比べれば、ユーロは少なくとも民主的なプロセスを経た行動なので、非の打ちどころはありません。

2.次に事実上ドイツがユーロ政府並びにECBを動かしておられるとおっしゃられていましたが、ギリシャ並びにユーロ圏諸国の危機により、結局どこが一番得をしていることになるのでしょうか? 一つにはドイツの銀行にギリシャの預金が流れているということをおっしゃっていましたが、この銀行とは具体的にどの銀行ですか? 私としましてはこれはドイツ一国だけの利益というよりはもっと大きな規模での様々な機関の利権が絡んでいるようにも想像するのですが先生はその辺りどうお考えでしょうか?

ユーロという通貨・金融政策の統一という試みは、フランスの提案にドイツが乗ったものです。第2次大戦では、敗戦国のドイツに負けないほど、戦勝国のフランスも破壊され、疲弊しました。米ソという2大大国の狭間で、欧州が個々のままでは没落するという危機感から出たものです。

また、当時はソ連に勢いがあり、市場経済よりも計画経済の方が、復興やその後の発展にも効果的だとの信仰があったようです。

イタリアやスペインも大国なのですが、発言力は意外に小さいですね。また、金融危機以降は、フランスを含め、ドイツ以外の政府はすべて転覆したので、ドイツの発言力はさらに増しました。転覆の主要な理由は、どこも経済問題ですので、自国の問題に対応できる経済政策を持たないところが、国民の支持を失った形です。

ギリシャの銀行預金はここ数年で4~5割減少しています。生活費に充てている部分もあるでしょうが、割合が大き過ぎますので、キプロスでもそうだったように、大半は海外の銀行への預け替えでしょう。

自国の銀行に不安を感じるユーロ圏の預金者が、安心して海外に資金を移せる先は多くありません。スイス・ユニオン銀行、JPモルガンチェース、バークレイズ、BNPパリバ、ドイツ銀行などです。このうち、前の3つには為替リスクがありますので、BNPパリバとドイツ銀行が2大受け入れ先かと思います。このうち、国の経済や政治力を考慮すると、ドイツ銀行が一番多いと思います。もし、違う事実をお掴みでしたら、お教え下さい。

ユーロ各国の失業率の推移を見るだけでも、ECBの金融政策の恩恵をドイツがほぼ独占していると言い切っていいと思います。ドイツだけでなく、様々な機関の利権もあるでしょうが、機関は所詮、機関でしかありません。誰かというよりは、どこかの国がその機関の主導権を取り、より有利になるように政策を導きます。

失業率

ユーロ政府、ECB、IMF、世銀、BIS、国連を含め、多くの国際機関は、建前はともかく、実際にはほぼ常に大国の意向を反映しています。政治、政策は優先順位ですので、小国の利益は大国の利益に結び付く形でしか、優先順位を高められません。慈善事業ですら、優先順位があるのです。

ユーロ政府とECBは、欧州の機関ですので、さすがに欧州以外の大国の意向は反映できません。基本的にはドイツとフランスの意向が最も反映されるのですが、経済状況とECBの政策の整合性を見る限り、フランスの意向は反映されず、大統領もサルコジからオランドに代わりました。

3.いわゆる通貨の価値は世界の国々の信用と経済のバランス等で成り立っているわけですが、日本の経済状況やユーロの国々の危機、またその中で起こっていることの異常さなどを考えると、これから先どんな状況も起こりうると思います。もし通貨の価値が無くなった時のことなども先生はお考えでしょうか? その時の実物資産によるリスク回避(例えば金買い)など、そのようなことは先生はどうお考えでしょうか?

私が異常だと捉えているのは、経済的な合理性のないマイナス利回りだけで、未曾有や異次元と呼ばれる量的緩和も、現状のインフレ率では驚くに当たらない政策だと見ています。マイナス利回りは余剰資金の恩恵に預かっているところがコストを支払っているだけで、その余剰資金は当局がつくったものですから、利益の還元と見なすこともできます。市場機能を破壊しますが。

この25年ほどの世界で起きていることは、異常というよりは、私などが教育され信じてきたような、「人類は進歩している」ということが幻想でしかなかったということです。今、起きていることは古代や中世の戦国時代とほぼ変わらず、そういう目で地政学的リスクを見た方が、マスコミの解説よりもよく分かるほどです。

仮にユーロがなくなれば、マルクやフラン、リラ、ペセタ、ドラクマなどに戻るだけです。当然、価格変動は起きますが、いずれ経済を反映したものに落ち着きます。中長期的には欧州は今より良くなると見ています。

通貨の価値がなくなるとは思えません。世界経済は、もはや実物資産で裏打ちできる規模ではなく、電子マネー、電子決済が主流になるだけだと思います。その時にも価値の拠り所は必要です。つまり、支払手、受取手の双方が納得できる価値がなければ通貨とはなりえません。これは、突き詰めると流動性が最大の価値を持つということで、その意味では、少なくとも今後数十年間は米ドルが(レートの上下はさておき)最も価値がある通貨で居続けることを示唆しています。

【みんかぶマガジン】矢口氏のコラム
最新記事:16/12/5「イタリア国民投票の焦点
矢口 新

矢口 新

大学卒業後、国内外の大手証券会社にて為替、債券のディーラー、機関投資家セールスを勤めた後、株式会社ディーラーズ・ウェブを創業(2002年5月~2013年5月)。2013年4月まで同社代表取締役社長。