FXコラム

利上げは低中所得者層いじめか?

【著者】

日経新聞オンラインにワシントン支局長のコラムとして、利上げで米国民が家や車を買えなくなり、憂鬱になるとの記事があった。

参照:家も車も持てない? 米国民に憂鬱な利上げ

http://www.nikkei.com/article/DGXMZO95530230V21C15A2000000/?dg=1

要点を抜粋する。

1:「米国勢調査局のデータによると、米国民の持ち家比率は2015年7~9月期で63.5%と、04年4~6月期の69.4%をピークに低下傾向をたどり、1980年以降では最低の水準を記録している。」

2:「08年9月のリーマン・ショックから7年を経て、家計の純資産は08年の56兆ドル強から、14年には84兆ドル強まで拡大。前例のない金融緩和が資産価格を押し上げ、個人消費を刺激して景気の底堅い回復を支えてきた。」

3:「所得の伸び悩みや住宅の値上がりに、先行きへの不安も重なって、マイホームの購入に二の足を踏む米国民が少なくないという。全米不動産協会の調査では、15年に初めて家を買った米国民が全購入者の32%にとどまったもようだ。1987年の30%以来、28年ぶりの低水準である。」

4:「借家の賃料が上がって生活に余裕がなく、手ごろな価格帯の持ち家も見つからない。低中所得層の受難がここにも見え隠れする。」

5:「リーマン・ショック後に始まった異例の危機対応が転換点を迎え、米国民も新たな環境への適応を迫られる。だが長期間にわたる利上げが家計をじわじわと圧迫するのは避けられない。」

6:「米国の自動車ローン残高は1兆ドルの大台を超えた。自動車大手の破格の低金利融資のおかげで、信用力の低い個人でも車を買うことができた。FRBの利上げで消費者の購買力が低下し、自動車の販売にも影響を与える。」

以上が、現地からの米利上げに関する観測だ。

これには注記がいる。それによって、米連銀が利上げを見送った方が良かったのかどうかを、皆さんで判断して頂きたい。

1:「米国の持ち家比率は04年4~6月期の69.4%をピークに低下傾向」となった。米連銀は2003年6月に1%まで引き下げた政策金利を、2004年6月の1.25%から2006年6月の5.25%にまで引き上げ、2007年9月に4.75%に引き下げるまで引き締め政策を維持した。これだけを見れば、利上げにより持ち家比率が低下したようにみえる。

一方で、新築住宅販売は2004年1月が年率116万5000戸、05年が120万3000戸、06年が117万4000戸と減速しない。2007年に至って89万1000戸、08年62万7000戸、09年33万9000戸と、利下げのなかで急減速する。2007年8月に住宅バブル崩壊のサブプライムショックが起きたからだ。

つまり、持ち家比率が04年4~6月期の69.4%をピークに低下傾向となるなかで、その後2年間は住宅販売が伸び続け、3年間は価格が上げ続けた。その期間は投機的に住宅を買う人たちが価格を押し上げ、買いたい人たちが買えなくなっていたのだ。こうしてみると、米連銀の2004年6月の利上げは正しく、仮に利上げを遅らせていれば、住宅価格は更に上昇し続け、持ち家比率も更に低下していた可能性がある。

2:このことはつまり、「異例の危機対応」を終えなければならない時期なのだ。

3:「15年に初めて家を買った米国民が全購入者の32%にとどまった」のは、コラムの指摘の通り、所得の伸び悩みや住宅の値上がりのためだ。つまり、超低金利が継続中の15年でも、住宅は所得に比べて高過ぎて買えなくなっていた。このまま緩和政策を続けることは、住宅価格の更なる上昇につながる可能性が高く、住宅はますます高値の花となってしまう。

4:これが緩和政策、インフレ政策の弊害だ。

5:「利上げが家計をじわじわと圧迫するのは避けられない」のは事実だ。利上げで貯蓄資産は増加するが、債務だけで資産のない人は苦しくなる。一方で、緩和政策、インフレ政策では、4のように資産のない人が苦しくなるので、すべてがメリットとなる政策はない。問題は、「異例の危機対応」を今後も続けるかどうかなのだ。

6:「破格の低金利融資のおかげで、信用力の低い個人でも車を買うことができた」というのは、住宅でのサブプライム・バブルと同じだ。住宅バブルは破格の低金利融資を続けたために起き、終に売る人がいなくなって破綻した。常軌を逸した信用供与による需要の先食いは、長く続けば続くほど、その反動も大きくなる。

私はこうした見方なので、米連銀の利上げは、むしろ遅きに失したと見ている。

【みんかぶマガジン】矢口氏のコラム
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矢口 新

矢口 新

大学卒業後、国内外の大手証券会社にて為替、債券のディーラー、機関投資家セールスを勤めた後、株式会社ディーラーズ・ウェブを創業(2002年5月~2013年5月)。2013年4月まで同社代表取締役社長。