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最悪の結末な予感

【著者】

第3四半期を迎える中、EU離脱に関するイギリスの重要な決定(Brexit=ブレクジット)は、しばらく影響を与えることになりそうです。イギリスのEU離脱は、EUの存続に関する長期的なリスクを復活させました。第3四半期は米ドルが最も優れた逃避先となる一方で、ユーロは下落し、中国人民元は引き続き予測困難となるでしょう。

第2四半期の前半は、世界の資産市場が年初の強烈な打撃から回復しました。第1四半期は、中国が積極的な通貨切り下げを行わないことを示唆し、米連邦準備制度理事会(FRB)は、3月の連邦公開市場委員会(FOMC)会合で極めてハト派的なスタンスを示しました。資産市場は、これを受けて第2四半期の大半の期間で回復を続けました。

しかし第2四半期のヨーロッパは、6月23日のイギリスでの国民投票に関する懸念により、急速に勢いを失いました。EU離脱に関するイギリスの衝撃的な結果は深刻な打撃を与え、第3四半期前半のヨーロッパとグローバル市場は、引き続き不安定となるでしょう。

第2四半期のアメリカの資産市場は比較的安泰でしたが、米ドルは強弱まちまちとなりました。米ドルは、EU離脱に関するイギリスの国民投票を前に弱含む場面すらありましたが、結果として第2四半期末に大幅な上昇となりました。イギリスのEU離脱を前に、5月の雇用統計が極めて軟調であったため、FRBは極度に慎重なスタンスを示さざるを得ませんでした。また、ISMなどの景況指数では、アメリカ経済が夏にかけて大幅に改善しない限り、景気後退に陥る可能性があることが示されています。

市場心理の悪化によりFRBの政策指針は行き詰まっており、現在と同様、今後FRBが支援策を実施する可能性はほとんどないと思われます。FRBは、理論的には量的金融緩和策第4弾(QE4)を発動できますが、今年は国内で歴史的な大統領選を控えているため、実行のハードルは極めて高くなります。

さらにFRBは自らの経験、そして日銀の経験を踏まえ、金融政策が新たな景気後退リスクに対して有効であるとは考えていないでしょう。ジャネット・イエレンFRB議長は、6月のFOMC会合で、いわゆる「ヘリコプターマネー」の効果について明言を求められると、慎重ながらもこれを認める発言をしました(これには資金供給によるFRBの財政刺激策が伴います)。第3四半期は、政治家のすべての関心が11月の大統領選に向くため、ヘリコプターマネーの投入にはあまりにも時期尚早です。しかし、第3四半期も円が上昇を続ければ、日本が状況を大きく変える可能性があります。

第3四半期の見通しとしては、EU離脱に関するイギリスの国民投票が当面のテーマとなるでしょう。また、国民投票後の英ポンドの下落はしばらく続くと思われますが、今後その勢いは失われるでしょう。投機的なショートポジションが積み重なったことにより、統計がイギリスの堅調さを示せば、反転により大幅な上昇リスクが生まれる可能性があります。イギリスにとっては幸運なことに、外見上景気後退リスクが高まり、懸念されているデフレが復活して通貨戦争が再発しそうな世界では、通貨下落が「無料の」刺激策となります。

もう1つ重要な疑問は、EU離脱に関するイギリスの国民投票が、ヨーロッパ、さらにはアメリカで政治的な反主流派トレンドの先駆けとなるか、という点です。アメリカの大統領選は、主流派/反主流派という点で、かつてない厳しい対立を生み出す可能性があります。EUも間もなく、その存在意義を問われることになるでしょう。

EUは第2四半期末のスペインの選挙で辛うじて難を免れましたが、イタリアでは憲法改正を問う国民投票が予定されており(日程は未定ですが、10月に行われるでしょう)、ここで不利な結果が出れば、総選挙が行われる可能性があります。また、来年の春にはフランスの大統領選が予定されています。

世界金融危機以降の中央銀行の政策は格差を生み出し、主にこうした状況が反主流派感情を刺激しています。今後数四半期のパラダイムシフトは、こうした感情によって引き起こされるのであり、全体主義的な傾向を強める金融システムの研究者が資産買い入れやマイナス金利では対応できなくなることが原因ではありません。これまで見てきたように、最初に崩壊するのは社会です。

第3四半期のG10概要

2016年の下半期は、世界の資産市場が逆風にさらされることになるでしょう。この時期は、イギリスのEU離脱以降の世界で価格を探り、国民投票の結果がEUの存在を脅かすきっかけとなるか観察し、早晩の中国の通貨切り下げとその後のデフレ輸出を乗り切るという課題が待ち構えています。また、日本におけるヘリコプターマネーのタイミングとその内容を把握し、目前に控えた11月のアメリカ大統領選の結果と影響について考察する必要があります。

逃避先 - 良好、悪い、最悪

良好:米ドル

第2四半期は、政策がさらに乖離し、FRBがしばらくは対策を取らないという想定に基づき、米ドルに関する楽観的な見通しをある程度あきらめる必要がありました。ただし、アメリカが景気後退を回避し、イギリスのEU離脱による影響が残る中で適切な舵取りを行うならば、年内に一度だけ利上げが行われる可能性も残されています。

むしろ、今後の不透明性が増すことを考えれば、米ドルが上昇する可能性は、逃避先としての役割に求めることができます。FRBは、新たな政策を打ち出すのが非常に難しいという政治的理由もあって、米ドルの上昇を放置する可能性が高く、第3四半期の米ドルは最も優れた逃避先になると思われます。米ドル上昇のその他の要因として、インフレ率の低下による米ドルの実質金利の改善が考えられます(実質金利については補足記事を参照)。

米ドル/日本円とアメリカ/日本の実質金利の比較

ドル円と金利

このチャートでは、アメリカと日本の実質金利差を示しています(10年債利回りからインフレ率を控除)。実質金利差の拡大による米ドル/日本円の上昇では、アメリカにおけるデフレ傾向か 、日本での新たなインフレ傾向(おそらくは政策によるもの)、またはその両方が必要となるでしょう。

アメリカでインフレ率が相対的に高止まりし、一方でアメリカの長期利回りが継続的 に 低 下 す れ ば 、日 本 が 政策対応を取らない限り、米ドル/日本円には100円を下回る大きな圧力が加わるでしょう。

悪い:ユーロ

ユーロは、イギリスのEU離脱の結果を受けて対英ポンドで大幅に上昇しました。また、ヨーロッパ人がイギリスのポジションからの分散を求めていることから、さらに上昇する可能性もあります。しかし、長期的に見るとユーロは逃避先として望ましいとは言えず、特に米ドルのパフォーマンスを下回る可能性があります。

EU離脱に関するイギリスの国民投票が当面のテーマとなるでしょう。また、国民投票後の英ポンドの下落はしばらく続くと思われますが、今後その勢いは失われるでしょう

イギリスのEU離脱は、EUの存続に関する長期的なリスクを復活させました。EU最大の経済規模を誇るドイツは、輸出産業に大きく依存しており、2011年~2015年のGDPで輸出が占める割合は45.7%にも達します(ソース:世界銀行)。一方、イギリスは28.4%、アメリカは13.4%に留まります。世界の成長鈍化は、消費国よりも生産国に大きな打撃を与えます。輸出に依存するドイツは、今後の世界的な減速の影響を直接受けることになるでしょう。

最悪:スイスフランと日本円

スイスフランと日本円は、第3四半期の逃避先として最悪の通貨になるでしょう。市場が自然な流れで動き、世界の資産に対する次の対策が再び軽微なものに留まるか、または不十分なものとなるならば、スイスフラン、そして特に日本円は、大幅に上昇するものと思われます。スイスフランには、EUの存続という長期的なリスク要因もあります。

スイス国立銀行は、すでに積極的な介入を開始し、大幅なネガティブキャリーを抱えているため、スイスフランの過剰な上昇を阻止する決意を固めていると思われます。同様に日本は、日銀と安倍内閣がヘリコプターマネーを最初に投入する可能性があり、予断を許しません(財政刺激策と日銀の新規買い入れの切り替え、または財政当局および金融当局が単に資産価格を下支えするのではなく、最終需要の刺激を目指して公然とオペレーションを行う可能性があります)。また、こうした状況は、日本円への圧力が弱まらなければ、早ければ第3四半期にも実現する可能性があります。

2016年の下半期は世界の資産市場が逆風にさらされることになる

英ポンド - さらなる下落

イギリスのEU離脱がもたらした不透明性は、イギリスがリスボン条約50条の手続きを開始しても、すぐに解消することはないでしょう。条約の新たな交渉には、1年または2年(定められた期限ですが延長も可能)、さらには10年を要する可能性があります。イギリスの多額の構造的赤字を考えると、英ポンドは国民投票前から下落リスクを抱えていました 。

EU離脱が唯一イギリスに与えた良い影響は、通貨下落が刺激策となったことにより、需要が制限され、デフレ傾向にあった世界においてデフレの回避に貢献したことです。しかし、目先のマイナス要因の中でも重要なのは、資本流入に関するリスクです。ロンドンは極めて重要な金融サービスの中心地ですが、もしヨーロッパの大手銀行がイギリスの完全離脱に備えて主要部門をイギリスから引き揚げれば、この地位に関する不透明性が高まります。

しかし、第3四半期のある時点で、ユーロ/英ポンドの通貨ペアは英ポンドの他の主要通貨とのペアに先行してピークを迎えるでしょう。英ポンドはすでに大幅に割安となっており、EU離脱後はむしろヨーロッパで長期的な懸念が高まります。

G10マイナー通貨

G10マイナー通貨とは、コモディティ(商品)に依存する3通貨、豪ドル、ニュージーランドドル、カナダドル、そして北欧の2通貨、ノルウェークローネとスウェーデンクローナです。イギリスのEU離脱による当初の調整を経て資産市場が比較的早く安定化し、主な関心がヨーロッパと英ポンドに集まれば、コモディティ通貨である3つのドルが第3四半期中にマイナスの関心を過度に集めることはないでしょう。

イギリス国債がEU離脱により格下げとなる可能性があるため、オーストラリアのAAA格債がある種の逃避先になるとの主張もあります。これはかなり強引な意見ですが、アメリカの景気後退懸念が高まり、コモディティが大幅に軟化することになれば、世界の景気見通しが懸念どおりさらに悪化し、コモディティ通貨の危険信号が灯ることになります。

最も脆弱なのはニュージーランドドルで、豪ドルとカナダドルがこれに続きます。世界の経済成長が鈍化すれば、デフレリスクが再度大幅に高まる中で、ニュージーランドとオーストラリアの政策金利がさらに引き下げられる可能性があります。また、両国は、政策金利の引き下げ余地がある最後の先進国となっています。一方、北欧の2通貨は、EUが2010年から2012年に存続の危機を迎えた時にユーロからの逃避先となりましたが、今回はそうした兆候がまだ観察されておらず、現時点では妥当な相場にあるといえます。

新興国通貨

米ドルは第3四半期に強含むでしょう。新興国市場には米ドル建ての債務があり、米ドル上昇はコモディティ価格に影響を与えるため、米ドルが上昇すれば一般には新興国通貨に悪影響が及びます。しかし、第3四半期以降の新興国通貨にはさまざまな可能性が残っています。リスク許容度の変化は、トルコやメキシコなど、経常収支が良好でない、または悪化している新興国に間違いなく打撃を与えるでしょう。しかし、一般に新興国市場は、かつてよりもこうした要因への耐性を高めており、米ドルやリスク許容度の変化と同様に、全般的な成長見通しからより大きな影響を受けると思われます。

予測不能:人民元

中国人民元の運命は、長期的な圧力により大幅な通貨切り下げが必要になったとしても、政府の短中期的な統制に完全に委ねられています。中国は、信用拡大を維持し、信用サイクルの最後にデフレとなることを回避するために、資金供給を続けるからです。中国は、米ドルが上昇すれば米ドルに対する引き下げを図り、引き続きゆるやかな通貨下落を目指しています。しかし、米ドルが下落しても、貿易加重ベースでは人民元を引き下げています。

貿易加重ベースの公式のCFETS人民元指数は、12月にCFETSバスケットが発表されてから、6月後半までに約7.6%低下しました(第2四半期は3%未満の低下)。こうした動きが継続すれば、四半期当たり3%の切り下げが続くでしょう。しかし、中国が突然上昇を許容すれば、イギリスのEU離脱による目先の影響をはるかに上回る衝撃となるため、急激な変動には注意する必要があります。現在の切り下げペースであっても、先進国の成長鈍化が続けば、中国は他の国にデフレを輸出することになるでしょう。

為替相場の鍵となる実質金利

実質金利とは、投資家がインフレ率と連動した中長期のリスクフリー証券で得られる金利です。為替相場は、中央銀行が直接統制する名目金利スプレッドよりも、実質金利のスプレッドと緊密に連動しています。実質リターンないしインフレ調整後のリターンは、購買力の維持においてより重要な意味をもつことを考えれば、こうした状況は当然といえます。通貨の上昇は、外貨建ての輸入価格を引き下げ、インフレ率を抑制することになるため(逆も然り)、実質金利との相関性は自己強化的となる場合があります。

たとえば、日本における実質金利の大幅な改善は、今年の円の回復を力強く支え、日本はインフレからデフレへと逆戻りしました。したがって、日銀がマイナス金利を導入してから日本の長期利回りは急落しましたが、インフレ率は債券利回りを上回る低下となっています。

同様に、アメリカでは米ドルが着実な上昇となっていませんが、低下する長期利回りと比較してインフレ率が高いことがその理由の1つとなっています。アメリカの実質金利の改善により米ドルの上昇を実現するには、アメリカの成長見通しが改善することで、インフレ率に対して利回りが大幅に上昇するか、インフレ率が大幅に低下する必要があります。

第3四半期の米ドルの実質金利については、後者のシナリオの方が現実的であると思われます。
実質金利が最も高い国には、オーストラリア(1%近く)とニュージーランド(2%超を維持)がありますが、両国とも昨年に大幅な低下となっています。実質金利が最低となっているのはノルウェーであり(G10で実質金利が唯一マイナス)、10年債の利回りは1.0%をわずかに超える水準であるにもかかわらず、インフレ率は3.0%近くに達しています。ノルウェークローネの上昇を持続させるには、実質金利のさらなる上昇が必要となります。

ブレグジットの影

サクソバンク証券株式会社

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