上海合意

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上海合意とは、2016年2月26日~27日に上海で開催されたG20(20カ国・財務相・中央銀行総裁会議)において、非公式ではあるのものの為替市場でのドル高抑制となる合意が交わされたのではないかという市場関係者の憶測のこと。

上海G20では、為替相場に関して緊密に協議すると初めて表明されました。

合意内容とされる憶測は以下の2点。

FRB(米連邦準備制度理事会)は資源国の通貨や株価の暴落をさけるため、利上げを急がないという国際公約を結んだ。
・中国人民元の切り下げを含め、各国は通貨安戦争を回避する。

当初この上海合意は、1985年のプラザ合意と同様の文脈で報道されたこともあり、一部の市場参加者の憶測にしか過ぎませんでした。

しかし、その後各国の要人発言により徐々に現実味が増し、米ドルはドル安方向へと進むことになります。

イエレン議長のコメント

G20の後、3月16日のFOMC(米連邦公開市場委員会)がありました、

3月は多くの米地区連銀総裁がタカ派なコメントを繰り返し、2016年4月にも利上げがあるのではないかという期待が高まっていました。
しかし、市場参加者の予想に反し、イエレン議長が想定以上にハト派的なコメントを行いました。

その後のイエレン議長の講演でもハト派的なコメントであったことから、上海合意の憶測と一致し、徐々に信ぴょう性が増すこととなってきました。

 この報道は、前述の「FRBは利上げを急がないという国際公約をした」とのマーケットの憶測と合致します。

安倍首相のコメント

4月6日の午前1時頃、 ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)に安倍首相のインタビューが掲載されました。

記事によると安倍首相は、ここ数カ月の円高傾向や人民元の下落、その他の主要通貨の不安定な動きについて、「通貨安競争は絶対避けなければならない」とし、「恣意的な為替市場への介入は慎まなければならない。」との認識を示した。

これも、上海合意とされている『通貨安戦争は避ける』こと合致します。この記事により、その日も円高が進んでいたドル円は110円台を割り込むこととなりました。

また、このインタビューを行ったメディアが米国のウォール・ストリート・ジャーナルであったということも、重要だとされています。
なぜなら、安倍首相がWSJのインタビューに応えるということは稀です。ということは、わざわざ米国に向けて、『日本は為替介入を行わない』と宣言したという意味に受け取れるからです。

参考:通貨安競争は絶対に回避を=WSJ会見で安倍首相

ちなみに、欧州に向けて意見を発信する際にはFT(フィナンシャル・タイム)が使われるそうです。

メルシュECB理事の発言

4月8日にECBのメルシュ理事(タカ派)は、著名な経済フォーラムであるアンブロセッティ・ワークショップにて、以下のように発言をしました。

ECBはユーロ安を目指していない。」
「ECBは、マイナス金利の複雑性を認識している。」
「中央銀行が金融政策を決定するときに、為替レートを主要目的とはしていない。これは非常に重要なことなので強調するが、強い国々は自国通貨の切り下げをすべきではない。」

このことも、安倍首相と同じく『通貨安競争をしない』という上海合意の趣旨と合致します。

ますます上海合意の思惑が高まり、ドル円は再び下落に転じ週明け月曜日の東京市場で年初来安値を更新することとなりました。

エコノミスト・アナリストの見解

3月18日のブルームバーグの記事によると、プラザ合意に似た合意の存在があるのではないかとする一方、多くのアナリストは懐疑的な見方をしている、としています。

※PIMCOは上海G20後の世界の当局者の行動は、暗黙の合意があったことを示唆しているとの見解を示しています。

同社のグローバル経済アドバイザーであるフェルズ氏は「暗黙の上海合意のようなものが存在しているようだ」と指摘。しかし、プラザ合意のような先進国によるドル売り介入ではないとし、「市場介入ではなく適切な金融政策行動を通じて、主要通貨に対してドル相場をおおむね安定させるという合意だ」と説明しています。

また同氏は、2015年夏以降の中国人民元の大幅な切り下げに対して、「主要中銀がドルの安定化に動くことで、その動きを緩和することができるのだろう。」とコメントしています。

※アメリカのカリフォルニア州に本社を置くグローバル資産運用会社。債券運用残高では世界最大級。

しかし、多くのアナリストは上海合意の存在に懐疑的のようです。
元米財務省に勤務し、国際金融協会(IIF)のチーフエコノミスト、チャールズ・コリンズ氏は「協調合意が存在するとは思わない」としながらも、「金融当局が相互に連絡を取り、互いの戦略を承知していることは明らかだ」と説明。

プラザ合意に似た「上海合意」が存在する可能性、一部アナリスト指摘

また、元外資系銀行の為替ディーラーであった松崎美子さんが興味深い記事を書いてくれています。

BOAメリルのエコノミスト:ハリス氏
結論として、上海合意はなかったとする。理由は5つの根拠。

1.金融政策と通貨との関係

今までのマーケットでは、ECBや日銀が金融緩和を通じた通貨安と、アメリカは金利据え置き(利上げ期待?)による通貨高が進行していた。

しかし今回の合意の噂によると、ECBと日銀は一方的な通貨安を目指すことは諦め、ドル安を受け入れたと言われている。果たして金融政策と通貨との関係は、突然シフトしたのか?

2.アナウンスメント効果

G20会合のようなアナウンスメント効果が高い会合では (コミュニュケなどを発表し) マーケットでの最大の効果を狙う。
しかし、「秘密の合意」では、その効果が得られない。

3.各国独自の金融政策の必要性

常々、アメリカの当局は、各国の中央銀行はそれぞれの国が抱えている問題や必要性を重視し、独自の金融政策を展開することを支持していた。アメリカは突然、この必要性を放棄し、ギア・チェンジをしたのか?

4.他のメンバーへの影響度合い

もし本当に合意があったとしたら、イエレン議長は、その合意の内容を秘密にしながら、どのようにしてFOMCの他の理事達を納得させ、年内の利上げの回数(ドット・チャート)を低くさせることが出来るのか?

5.ドル下落のタイミング

昨年春くらいから、ドルの上昇は止まっていた。そして今年に入ってからのドル下落の半分くらいは、上海G20の前から既に始まっていた。それなのに、どうしてこのタイミングでドル高是正の合意が必要だったのか?

※同行は上海G20の前に、「実現可能性は低い」と断りながらも、この会合でプラザ合意に匹敵する「上海合意」の必要性を訴えていた。

参考:ロンドンFX 上海合意の有無