FXコラム

ソフトバンク:日本発、世界最大級のヘッジファンド?

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ソフトバンクグループ(9984)は7月18日、英半導体設計会社のARMホールディングスの全株式を現金で取得することで合意したと発表した。総額は約240億ポンド(約3兆3600億円)となる。ARMの1株当たりの取得額は17ポンドと、15日の終値11.89ポンドに約43%上乗せした水準で、全株式14億1200万株を取得、完全子会社化する。ソフトバンクはさまざまな機器をインターネットでつなぐ時代を見据え、この買収でIoT技術の世界的な有力企業を傘下に納めることになる。

ソフトバンクは買収資金調達にあたり、みずほ銀行とブリッジローンとして最大1兆円の借入契約を締結。残額は手元資金で賄うとした。買収は9月末までに完了する見込みだとしている。ソフトバンクグループは2016年3月末時点で2.5兆円の現預金を抱え、その後のアリババ株売却やフィンランドのスーパーセルの売却などで約2兆円を得ていた。

ソフトバンクの経営は「レバレッジ経営」と呼ばれている。
レバレッジとは、元手資金を借入金により膨らませ、梃(てこ:レバレッジ)の原理で、収益を膨らませようとするものだ。企業の場合の元手資金とは自己資本(純資産)、借入金は有利子負債で知れる。ソフトバンクの2016年3月末時点の有利子負債は11兆9224億円。これは自己資本の3.4倍、売上高の1.3倍、営業利益の11.9倍に当たる。

これがどれほどのものか、同業種のNTTドコモと比較すると、この異常なレベルが際立つ。参照図では、数値が大きい方に矢印を向けた。利益と称されるものがいくつかあって、それぞれに意味があるのだが、最終利益として、配当原資となったり、PER、PBR、ROEなどの算出に使われるのは、当期利益だ。これはドコモがソフトバンクを15%以上上回っている。

参照図:ソフトバンクとNTTドコモの連結決算比較
ソフトバンクとドコモ決算

参照:ソフトバンク連結決算
参照:NTTドコモ連結決算
参照:ソフトバンク有利子負債11兆9224億円
参照:NTTドコモ有利子負債2,222億円

ここで、ドコモはソフトバンクを当期利益で上回っているのに、一株益では大きく下回り、ROEでも負けている。これは、ドコモの方が、発行済み株式数が多く、自己資本が充実しているためだ。更に有利子負債が圧倒的に少ないので、総資産に占める純資産(自己資本)が多く、自己資本比率では圧倒している。

お気付きだろうか? 自己資本が少なければ、収益力が劣っていてもROEが上がる。ROE(Return On Equity)とは、当期利益を自己資本で割ったものなので、高めるには当期利益を増やすか、自己資本を減らせばいいからだ。つまり、健全経営を志向すればROEは下がる。

JPX日経400指数での銘柄選抜では、ROEが良ければ加点されるが、収益力が低くても、健全性を下げれば、ROEは上がる。案外な盲点だ。

それはともかく、財務内容から見るドコモは実直過ぎるような経営、一方のソフトバンクはレバレッジをかけて数兆円単位での会社売買による「ヘッジファンド」的な経営だといえる。面白みはソフトバンクの方が圧倒的にあるのだが、株価の推移はドコモに軍配を上げている。

参照図:ソフトバンクとNTTドコモの株価推移
ソフトバンクとNTTの株価

先週の外国為替市場では、日本勢による大量のポンド買いが見られたという。金額は15日までに少なくとも1兆5000億円に達したと見られている。もしこれが、ソフトバンクだけのものだったすれば、買収金額の半分近くを手当したことになる。

参照図:ポンド円(GBP/JPY)チャート
ポンド円日足

ブレグジットの後の対英直接投資、ポンド買いは、英政府に好感されるかも知れない。また、大量の円売りは日本の当局にとっても、有難いことだろう。

孫正義氏は日本が生んだ、世界最大級のヘッジファンドマネージャーと言えるのではないか? 大したリスクテイカーだ。

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矢口 新

矢口 新

大学卒業後、国内外の大手証券会社にて為替、債券のディーラー、機関投資家セールスを勤めた後、株式会社ディーラーズ・ウェブを創業(2002年5月~2013年5月)。2013年4月まで同社代表取締役社長。