FXコラム

ドイツの強さ

【著者】

ベルリンの壁が崩壊して25年になる。1989年にお荷物的な東ドイツを併合したことで、それまで好調だった西ドイツの経済も悪化した。以下に見られる5つチャートでは、ドイツ経済がそういった苦境から立ち直った姿を描いている。

参照:Germany 25 years after the Berlin Wall: 5 charts shown its transformation (英字サイトです)
http://www.marketwatch.com/story/germany-25-years-after-the-berlin-wall-5-charts-show-its-transformation-2014-11-06?dist=tbeforebell

私はそういったドイツ産業の強さ、ドイツ政府の経済運営の強さを否定するものではないが、それよりも特筆すべきは政治力の強さだとみている。端的にはユーロ圏の金融政策を事実上握ったことだ。詳しくは下記のブログにまとめているので、興味のある方々はご覧いただきたい。

参照:ギリシャ、アイルランド「ユーロ周辺国と日本の選択肢」
第9回:「第4項;ユーロの金融政策・その1」

http://ameblo.jp/dealersweb-inc/entry-11117477705.html

欧米経済の明暗が分かれたのは、2007年8月に起きた米サブプライムショックだ。エコノミストのなかには、2008年9月のリーマンショックを未曾有の金融危機の始まりかのように語る人がいるが、リーマンショックはサブプライムショックの余震で、金融市場の土台を揺るがしたのはサブプライムショックだ。リーマンブラザーズはそれで潰れた金融機関の最大手だったに過ぎない。

米連銀はその認識のもとに、そのバランスシートの情報ページに、金融危機の始まりを、2007年8月と明記している。(Since the beginning of the financial market turmoil in August 2007, the Federal Reserve’s balance sheet has grown)

参照:Credit and Liquidity Programs and the Balance Sheet
http://www.federalreserve.gov/monetarypolicy/bst_recenttrends.htm

そして、2007年9月には政策金利を5.25%から4.75%に引き下げ、2008年10月には1.0%にまで下げる。サブプライムショックの余波は、欧州にまでほぼ即座に届いた。英国銀行は住宅バブル牽制のために2007年6月には5.50%から5.75%に利上げしていたが、崩壊を受けて、2007年12月から利下げを開始する。

ユーロ圏は住宅バブルにも、当然その崩壊にも、地域差があった。バブルに乗っていたのはアイルランドやスペインで、両国の経済は急速に悪化した。しかし、欧州中銀は2007年6月に3.75%から4.0%に引き上げていた政策金利を2008年6月まで維持、7月にはなんと4.25%に利上げした。ドイツの消費者物価が高めだったから以外の理由は考えられない。

リーマンショックは、ドイツ銀行などのグローバル金融機関にも波及したので、2008年10月には利下げする。米国が利下げだけでは危機を止めることができず、量的緩和に踏み切った頃だ。即座に手を打った米国ですら、量的緩和までは悪化し続けたのに、逆に引き締め政策が採られていたアイルランドやスペインがボロボロになってしまったのは、両国の落ち度ではない。落ち度があったとすれば、ユーロに参加したことだ。

ユーロ政府とは、18カ国を束ねる大きな政府だ。欧州では賢人政治、衆愚政治というように、エリート崇拝の伝統がある。衆愚とは民主主義を否定しかねない失礼な表現だ。大きな政府のエリート政治がより機能するというのは理想だ。実際には、どこの国の大きな政府でも見られるように、権限が少数に集中することの弊害が、効率を上回るようになる。ユーロ政府では財政は個別で、通貨金融だけが統一なので、金融政策を握ったドイツが事実上18カ国を自由に扱えるようになったのだ。ユーロ圏内でのドイツの一人勝ちは政治の勝利なのだ。

ブログを見て頂ければ分かるが、それまでの最優等生だったアイルランドと、劣等生だったドイツとが立場を入れ替えるのは、サブプライムショック後だ。

同様のことは、2010年初めからのギリシャなどのユーロ周辺国危機の際にも、それらの諸国が金融政策で打つ手がないなか、財政引き締め強要と言う暴挙で、ボロボロにされていく。そして、資産はそれらの国々からドイツに移動する。それに抵抗した各国の首長は、欧州政府寄りの首長にすげ替えられ、ドイツの意向がより浸透するようになった。

ブログに詳しいので繰り返さないが、通貨・金融政策の選択で、スペインのように若者の失業率が60%にもなる現実を目の当たりにすると、政治とは思っているより身近で、つくづく恐ろしいものだと思う。情報操作には気をつけていたい。

【みんかぶマガジン】矢口氏のコラム
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矢口 新

矢口 新

大学卒業後、国内外の大手証券会社にて為替、債券のディーラー、機関投資家セールスを勤めた後、株式会社ディーラーズ・ウェブを創業(2002年5月~2013年5月)。2013年4月まで同社代表取締役社長。