FXコラム

斜陽産業?

【著者】

「以前、ディーラー1社に電話すれば4000万ドルの取引を行うことができたが、現在は注文を複数の電子取引システムに分散してディーラーが食いつくのを待たねばならない。」

「自力で取引するやり方へのシフトは、あらゆる方面で見られる。ブルームバーグが集計した米財務省のデータによれば、今年の米国債入札では、プライマリーディーラー(政府証券公認ディーラー)22社の落札比率は36%と、過去最低だ。債券トレーディングの規模で最大のドイツ銀行は金利取引ビジネスの縮小を検討していると、事情に詳しい関係者1人は今月明らかにした。

過去1年では、JPモルガン・チェースやモルガン・スタンレー、クレディ・スイス・グループ、RBSが債券取引デスクを縮小したか、縮小を検討している。一方で、米国債の電子取引はこの10年で急増し、現在では全取引の44%を占める。」

参照:ウォール街で「万物の支配者」影薄れる、米国債取引は自力で
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-NM02BQ6TTDS701.html

米国債のディーラーが「万物の支配者(マスターズ・オブ・ザ・ユニバース)」と呼ばれるようなことがあったのは、ほとんどすべての金融商品が米国債の動向に影響を受けていた時代があり、最も流動性に富んだ巨大市場だったからだ。

その1980年代に、私自身も米国債のディーラーとして、億ドル単位のポジションを扱っていた。私が特別ではない。1ショットで数千万ドルの取引を行うディーラーやファンドマネージャーは、日本人だけでも延べ数十人いたと思う。

それが、ここまで衰退した理由はいくつか考えられる。

1つは、過当競争や規制強化に対応して、金融機関の絶対数が急減したこと。日本の証券では大手4社だったのが、単独で存在しているのは野村と大和だけと半減した。銀行は長信銀3行、都銀12行、信託6行が合わせて数行となり、影響力も急減した。

1つは、スキャンダルや大損失などで、破綻企業が相次いだこと。米系ではかって債券王国と呼ばれたソロモンや、一時トップだったリーマンも今はない。

1つは、ヘッジファンドなどへ人材が流れ、相対的に小規模となり、リスク許容度が減退したこと。

1つは、ボルカー・ルールにより、不当な投機に歯止めがかけられたこと。

1つは、米連銀の量的緩和により米国債が買い上げられ、流通市場そのものが縮小、かつ、価格も歪んでしまったことなどだろう。

もう1つ、金融機関に限ったことではないが、米企業は四半期ごとの収益を最大化させるために、過大なリスクを取り続けている。エネルギー産業や軍需産業の、四半期ごとの過大な収益追求から想像される結論は恐ろしいものだ。

金融機関ではバブルをつくり、最後までしがみついていないと、ライバルに後れをとってしまう。しっかりとした投資基準を持った担当者ははじき出されてしまう。結果的にまともな経営者やディーラー、ファンドマネージャーたちがいなくなり、企業そのものが抜け殻となった。

欧州大手銀行18行は2014年に2万1500人を削減した。13年は5万6100人減だった。米国大手6行は14年に3万7500人規模の人員削減を実施した。13年には4万5700人を削減していた。規制強化で収益に圧力がかかるなか、事業再編に伴うコスト抑制の一環。米銀はこの2年で全体の7.3%、欧州勢は4.1%削減した。

金融が経済の中核であることは間違いないと思う。とはいえ、役目は黒子で、主役であってはならないと思う。しかし、私なども「勘違い」していた時代があったのだ。

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矢口 新

矢口 新

大学卒業後、国内外の大手証券会社にて為替、債券のディーラー、機関投資家セールスを勤めた後、株式会社ディーラーズ・ウェブを創業(2002年5月~2013年5月)。2013年4月まで同社代表取締役社長。