FXコラム

貿易収支は黒字化するか?

【著者】

4月8日発表の2月の日本の輸出額は5兆9588億円と、前年同月比232億円増の小幅の伸びに留まった。一方で、輸入額は6兆1020億円と、4065億円減少した。輸入がより多く減少したため、2014年1月には月間最大の2兆4169億円にまで達していた貿易赤字は1431億円に縮小した。2月の経常収支は1兆4401億円の黒字で、2011年9月以来3年5カ月ぶりの高水準となった。経常黒字に加え、貿易収支も黒字になるとの観測が出始めた。

同日発表の3月上中旬の貿易収支は1016億円の赤字と、前年同期の1兆1670億円の赤字から大幅縮小した。輸出額は前年同期比8.8%増の4兆3415億円。輸入額は13.8%減の4兆4432億円だった。

日本が貿易赤字になったのは、2011年3月に起きた大震災による原発の停止で、天然ガスなど化石燃料の輸入額が急増したことが大きい。その原発は再稼働に向けて動き出し、原油や天然ガスは値下がりが続いている。

原油価格の値下がりは、シェール・ブームに乗った米加の増産と、ロシア1国で旧ソ連時代の生産量に回復したロシアの増産が大きい。米国内では原油在庫が積み上がり、貯蔵タンクが飽和状態寸前になっているため、今後は市場への放出が不可避だとの見方が出てきている。カナダ、ロシアも減産に動く気配はなく、3月はサウジアラビアも増産したため、原油価格が再度、下値を試す展開が予想されるようになってきた。

天然ガスにもシェール・ブームが起きている。米国にはLNGもだぶついているため、世界輸入需要の37%を占める日本と、ロシアの市場だった欧州の需要を狙って、対ロシア制裁を始めたという見方も可能だ。世界最大のLNG輸出国であるカタールのシェアも低下中だ。また、これまで10年単位の長期契約が主流だったLNGの、2014年の世界での短期取引(スポット、または契約期間4年以内)の比率が前年比2ポイント上昇の29%と過去最高となり、先物市場価格をより強く反映した安値取引が増えている。

原発再稼働による需要の減少と、価格の低下により、化石燃料の輸入額が急減する可能性が出てきた。一方で、製造業の国内回帰により、パーツ輸入需要の減少に加え、完成品輸出の増加も見込めるようになってきた。これらのことは、貿易収支が再度黒字化することを暗示している。また、2月の旅行収支は過去最大の633億円の黒字となった。

私は2011年に始まった円安トレンドへの転換は、日本の貿易収支が赤字になったことが最大の要因だとみている。赤字は円売り外貨買い需要が、円買い需要を上回ったことを示すからだ。経常黒字に加え、旅行収支も黒字、貿易収支も黒字となると、円売り需要は金利差などによる外貨建て投資と、海外M&Aなどによる直接投資だけが主流となる。

私はこれまで、ドル円は最大160円くらいまで円安の可能性があると見ていたが、最大でも145円止まりの可能性になると修正したい。

アベノミクスは日本経済にプラス、マイナス両方の効果を与えているが、プラス面は概ね円安のおかげだと見ている。しかし、円安が永遠に続くとは限らない。私は今のうちに、規制緩和を中心とした構造改革を進めておくべきだと思うが、この点が一番遅れているように思える。

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矢口 新

矢口 新

大学卒業後、国内外の大手証券会社にて為替、債券のディーラー、機関投資家セールスを勤めた後、株式会社ディーラーズ・ウェブを創業(2002年5月~2013年5月)。2013年4月まで同社代表取締役社長。