スイスが上限撤廃を行った理由

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スイス国立銀行は1月15日、2011年9月に導入していたスイスフランの対ユーロでの上限、1ユーロ=1.20フランを廃止すると発表した。あわせて、中銀預金金利をマイナス0.25%からマイナス0.75%に引き下げた。

声明を受けて、ユーロスイスは一時0.8517と41%下落、1971年にブレトンウッズ体制の崩壊で変動相場制に移行してから、主要通貨ペアでは最大の変動となった。0.82198となっているものもあるので、もっと下落していたことになる。いずれにせよ、10分ほどでスイスはユーロとのパリティ1.00近辺に戻り、その後は1.00を挟んで変動している。

スイス5分

これまでのユーロスイスの安値は2011年8月9日の1.0068。同年9月6日にスイス中銀が1.20にスイスの上限を設けたので、以降は1.20をほぼ割り込むことなく推移してきた。

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とはいえ、2011年までのユーロスイスは明らかな下降トレンドで、声明だけでは1.20を維持することはできない。具体的にはスイスフランの魅力減退につながる金利引き下げを行い、為替市場で外貨買い、フラン売りを続けてきた。その結果、スイス中銀の外貨準備高は5000億ドルを超えるところまで膨らんだ。

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ここで、今になって上限撤廃を行った理由を推測すると、

1つは、このままユーロ・ドルが下落し続けると、安いユーロに連動して、スイスフランも安くなり続けることだ。つまり、ECBとギリシャ、イタリア、スペインなど周辺国との対立、ECBとドイツ連銀との対立、ユーロ圏とロシアとの対立など、ますます不透明になっていくユーロとの連動を避けたと考えられる。

2つめは上のチャートにあるように、2012年後半以降、それほど大規模な市場介入を行わなくても、1.20が維持できていたことだ。ユーロと実質連動するような不自然なことを続けなくても、それほどスイス高にならないのなら、相手に攻め所を教えるような上限などは撤廃するに限る。

3つめは、大規模な介入なしで2年半も1.20を維持できた一番大きな理由を、スイスフラン売り外貨買いのキャリートレードのためだと当局が見抜いていたためだ。どんなにスイスを売っても、1.20以上にはフラン高になる懸念がなかったために、スイスキャリーのポジションが膨らんでいたのだ。このままでは1992年のポンド危機を招いたBOEの二の舞になる。今回、それらはすべて損切りさせられたことと思う。大変動は自由に変動させないから起きるのだ。

何しろ、ユーロ安が急なので、スイスフランが高くなるのは避けられない面がある。一方、ユーロ安に連動して、対ドルではスイスも安くなってきていたので、この大変動を乗り切れば、一部で騒がれているような通貨高に苦しむことも少ないと思われる。

参照:Swiss Currency Shock Hits Exporters; ‘Words Fail Me,’ Says Swatch CEO
http://www.bloomberg.com/news/2015-01-15/swiss-exporters-face-tsunami-after-snb-unexpectedly-drops-cap.html

月足

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矢口 新

独自テクニカルで『相場のタイミングを捉える』 矢口 新

大学卒業後、国内外の大手証券会社にて為替、債券のディーラー、機関投資家セールスを勤めた後、株式会社ディーラーズ・ウェブを創業(2002年5月~2013年5月)。2013年4月まで同社代表取締役社長。