ナンピンしたギリシャ

ギリシャが債権団との支援協議で合意した。国民投票では緊縮財政案「受け入れノー」とされたので、歳出削減を約束した支援協議での合意に対する議会の反発は避けられない。チプラス首相は辞任に追い込まれるという観測もある。

また、第一関門となる改革法案の法制化を合意期日の15日までに実現しても、支援を受けるには時間がかかり、短期のつなぎ融資の確保が課題となる。20日にはECBが保有する35億ユーロのギリシャ国債償還のほか、月末には年金の支払いなどが控えている。

現状では、ユーロ圏残留を選択したギリシャだが、今後どのような展開を辿るのかを推測してみたい。

ユーロ残留のリスクだが、大きなものを3つ挙げると以下のようになる。

1、続く資金繰り
2、国民、預金資産、産業などの流出
3、自国の経済政策の不在


支援金には期限があり、年金の支払い、他の歳出も続く。3年の支援を取り付けたのなら、3年後に今回と同じ騒動が持ち上がる可能性が高い。

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過去数年間で、ギリシャからは国民の約3%が海外移住したとされるが、移住できた人たちは、海外で職を得られる能力があった人たちや富裕層だ。つまり、国にとってはより多く税金を納めていた人たちが流出した。

更なる緊縮財政、とりわけ、国民の意向を無視した形となった緊縮財政では、今後、そういった人たちの海外移住が加速する可能性がある。

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事実上の預金封鎖後に、これまでと変わらない状況が続くことが明らかとなったので、預金流出の加速も避けられない可能性がでてきた。

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債権団、特にドイツは国営産業の民営化を強く要求している。民営化とは、国の産業、資産を民間に売り払うことだ。そして、手にした売却金を債務返済などに充てるのだ。

ところが、ギリシャには資金がない。これまでも、ギリシャの産業、企業はドイツや中国などに買われてきた。つまり、民営化とはギリシャ政府の産業、資産を、事実上ドイツなどの民間企業に売却することを意味している。

エーゲ海で大油田が発見されたという説があり、既にドイツ企業が利権を手にしていると言われている。債権団の要求は、貸付金の返済を迫り、企業の資産や経営権を奪う、乗っ取り屋の行動に近いものがある。

経済政策を端的に言えば、経済の安定成長、完全雇用を目指して、財政資金や通貨供給を弾力的に柔軟に運用するものだ。

なぜ、柔軟性が必要かと言えば、自然環境や社会情勢の変動などで、経済成長にブレが生じるためだ。景気が加速すれば資金を減らし、減速すれば増やすという弾力的な調整で、景気を安定化させるのだ。

自然環境や社会情勢の変動は、地域によって様々だ。夏に暑過ぎるところや、冬に寒過ぎるところもある。旱魃もあれば、豪雨や豪雪もある。地震や台風などで復興支援が必要なこともある。産業にも地域差があり、社会情勢の変化で時に優劣が生じる。そういったところに柔軟に対応するのが経済政策だ。

また、円安円高に見られるように、通貨の柔軟な変動も、各国に生じた差異を、バランスを取る方向に調整する機能を担っている。

ところが、ギリシャに限らず、ユーロ圏諸国には独自の経済政策がない。

通貨・金融はユーロとユーロの政策金利で単一だ。言葉を換えれば、硬直的だ。

通貨・金融政策が硬直的ならば、本来ならば財政資金を柔軟に運用すべきなのだが、財政規律という硬直的な箍を嵌めたために、通貨・金融政策に増して硬直的となった。これでは、自然環境や社会情勢が全く変動しないことを想定でもしない限り、経済政策は全く機能しない。

とはいえ、欧州政府や欧州中銀は単なるツールだ。組織は誰かが動かしている。ユーロ圏の経済政策は、変動する自然環境や社会情勢への対応を見る限り、ドイツが動かしている。現実に、サブプライム・リーマンショック後に、フランスを含めた各国の首長はほぼ全員が交替し、いわゆるユーロ政府寄りの首長となったが、メルケル首相は2005年11月以来在任している。

ドイツ経済はリーマンショック後の金融緩和でいち早く立ち直ったが、対ロシア制裁で落ち込んだ。そこで、量的緩和で立ち直りつつあるのが現状だ。つまり、ドイツ経済がもたついている限り、ユーロ圏の各国はその恩恵に預かれる。しかし、ドイツ経済が立ち直り、ドイツにインフレ懸念が生じた時に、欧州中銀が緩和政策を継続する可能性は極めて低いと言わざるをえない。

その限られた時間内に、ギリシャは債務返済を終えることができるだろうか? そうでなければ、緊縮財政のギリシャを今度は金融引き締め、ユーロ高が襲うことになる。

ギリシャにとってのユーロ残留リスクは極めて大きい。ユーロはギリシャの不良資産だ。評価損が拡大し続ける不良資産は、どんなに痛みを伴っても、いったん損切りして出直すしかない。

チプラス政権が、どのような理由で国民投票を行い、国民の意志に反して緊縮財政案を受け入れるのかは知らない。個人的なものも含めた他の様々な駆け引きも知らない。しかし、ギリシャ政府が行ったナンピン買いは、国民生活破滅への可能性を高めただけだということは断定していいだろう。地政学的リスクにつながるかもしれない。

【みんかぶマガジン】矢口氏のコラム
最新記事:16/12/5「イタリア国民投票の焦点
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矢口 新

矢口 新

大学卒業後、国内外の大手証券会社にて為替、債券のディーラー、機関投資家セールスを勤めた後、株式会社ディーラーズ・ウェブを創業(2002年5月~2013年5月)。2013年4月まで同社代表取締役社長。