米国は、元安誘導を容認する?

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11日のアジア時間に中国人民銀行が人民元の2%近い大幅切り下げ発表したことを受け、ニューヨーク市場のドル/元は3年半ぶり高値の6.4212元を付けた。1日の上げ幅としては1994年の元切り下げ以来の大きさとなった。

中国元は事実上、米ドルと連動している。当局が日々発表する人民元の取引の基準となる対ドル基準値に対し、2012年4月以降は1%幅、2014年3月以降は2%幅以内の変動が許されてきた。

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中国人民銀行は、「人民元の基準値と市場の為替レートとの乖離が大きくなっており、基準値の地位に対する影響が大きくなっていた」と、基準値の算出方法を変更する理由を説明した。人民元の基準値は従来、銀行から毎朝報告される為替レートをもとに人民銀が決めていた。今後は市場の前日終値などを参考に決めるという。

中国当局の今回の行動の背景は、基準価格と市場価格との乖離の他に、先日発表された貿易統計での輸出の落ち込みに対応しての元安誘導、外貨準備高の減少、国際通貨基金のバスケット通貨SDRへの採用が先送りされたことなどが取沙汰されている。

それに対し、米財務省当局者は、現時点で全体的な意味合いを判断することは時期尚早としながらも、市場原理に基づく相場への改革に逆行する措置は問題となると警告した。「米国は今回の変更事項がどのように適用されるか引き続き注視し、中国に対し改革のペースについて圧力をかけ続ける」と述べた。

中国人民銀行は「市場の為替レートとの乖離が大きく」なったために、算出方法の変更に踏み切っている。その意味では、市場原理に基づく相場への改革と言えるので、決して逆行ではない。むしろ、市場の圧力に負けたという方が正確だ。

もっとも米国は、こうした元安誘導の動きに対しては、以前なら「為替操作国」という言葉を使って非難してきたが、今回はそれなりに理解を示している。それだけ、中国の置かれた状況が深刻だとみなしているのかもしれない。

中国の習近平政権は、「虎からハエまで」と、政財界の大物から小物までの腐敗撲滅に動いている。中国は共産党国家が経済を運営する国なので、経済運営を担ってきた政財界の大物同士の対立にも繋がってしまう。国の株高政策に対し、(政府系?)企業のインサイダーたちが自社株を売り浴びせ、それを当局が取り締まるような対立だ。摘発され起訴されれば、死刑や無期刑なので、お互いに息の根を止めるような「戦い」だといえる。

ここで、経済回復、株高政策と腐敗撲滅を掲げる習近平政権が、これまで国の経済と共に富と権力を増やしてきた勢力に負けるわけにはいかない。習近平政権が国を挙げて株価を買い支えているように、何が何でも景気の減速を止めねばならない。相手が必死なら、こちらも必死だ。

中国の景気減速の大きな要因に元高がある。ドルの実効レートが上昇し、米輸出企業の業績を圧迫しているのなら、ドルと実質的に連動している元高による、輸出主導の経済である中国の景気が減速して当然なのだ。

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現在、世界の総資産にみる5大銀行のうち4つを中国の銀行が占めている。中国工商銀行が総資産3.5兆ドルでトップ。他の3つは中国農業銀行、中国建設銀行、中国銀行。4位には英国の銀行だが、中国と関係が深いHSBC(香港上海銀行)が入った。6位に米銀のトップ、JPモルガン・チェース銀行が総資産2.6兆ドルで入った。

ちなみに、2014年の世界の名目GDPは、1位の米国が17.4兆ドル、2位中国が10.4兆ドル、3位日本が4.6兆ドル、4位ドイツが3.9兆ドル、5位英国が2.9兆ドルとなっている。

米国が中国の元安誘導を止めることは困難だ。習近平政権の「戦い」は、本気だ。また、中国経済の失速、中国4大銀行の破綻は世界経済を大きく揺るがせ、リーマンショックを凌ぐ悪夢となる可能性が高いのだ。

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矢口 新

矢口 新

大学卒業後、国内外の大手証券会社にて為替、債券のディーラー、機関投資家セールスを勤めた後、株式会社ディーラーズ・ウェブを創業(2002年5月~2013年5月)。2013年4月まで同社代表取締役社長。