FXコラム

二極化する米住宅市場(ドル安で?)

【著者】

米4-6月期の家計純資産は前期比0.8%増の85兆7000億ドルと過去最高で、うち不動産資産は4990億ドル増えた。住宅の評価額から住宅ローン残高を除いた部分(エクイティ)の不動産資産全体に占める割合は56.3%と、前期の55.6%から上昇した。

米7月のS&Pケース・シラー20都市住宅価格指数は前月比-0.20%、前年比+4.96%の181.90だった。また、大都市のうち、デンバー、サンフランシスコ、ポートランド、サンノゼ、コロンバス、シャーロット、ナッシュビル、ミルウォーキー、オクラホマシティ、ローリーなどの住宅価格は、9月時点で最高値を更新中だ。

米8月の新築住宅販売件数は前月比5.7%増の年率55万2000件と7年ぶりの高水準だった。また、8月の中古住宅販売件数は前月比4.8%減の年率531万件だったが、7月の558万件は2010年5月以来の高水準だった。

一方で、先週にはRealty company Zillow Groupが、全米で30%の住宅価格が前年比で下落したとの調査結果を発表した。また、米第2四半期の持ち家比率は63.4%と、前四半期の63.7%から低下、1967年以来の最低となった。賃貸住宅の方は、空室率が6.8%と前四半期の7.1%、前年同期の7.5%から低下、1980年代以降で最も低い水準となった。

また、Google Consumer Surveyによれば、米国人のうち約62%の人の貯蓄が1000ドル以下にすぎないという。

これらの数値が示しているのは、米住宅の販売市場が活況で、大都市を中心に値上がりしているが、米国人は持ち家を手放し、賃貸住宅に住み替えていることだ。それは値上がり中の住宅を高値で売り抜けた層ではなさそうで、貯蓄1000ドル以下の層がそうしている。1000ドルとは1カ月の家賃にも満たない金額だ。

マンハッタンの賃貸住宅家賃の5月の中央値は3380ドル、空き室率は1.65%だった。ブルックリンの賃貸住宅家賃の5月の中央値は2933ドル、クイーンズの賃貸住宅家賃の5月の中央値は2597ドルだった。

持ち家比率が1967年以来の最低水準に下がり、賃貸住宅家賃が値上がりしていることで、ニューヨーク市やサンフランシスコのベイ・エアレアでは、有給の定職に就きながら、家賃が払えない人々が増加、ホームレス化している。

雇用市場が回復し、世界経済で独り勝ちの様相の米国だが、多くの米国人は貯蓄がなく、奨学ローンの支払いに苦しむなかで、住宅所有の夢を諦めている。ここに住宅価格の値上がりが、住宅所有をますます遠いものとしている。

そこに全米の8割以上の地域では、保育費が多くの米家庭の必要支出で最も大きな部分を占めるようになっている。子供2人の家庭の全米618地域調査で、500地域の保育費が家賃を上回った。最悪はニューヨーク州Binghamtonで、保育費が家賃の約3倍となった。

米国では中間層がなくなりつつある。雇用市場は回復してきているが、職はあっても住む家がなく、貯蓄がない人々が増えている。賃貸住宅に住む人々は家賃の値上がりに怯え、住み替える選択肢も少なく、綱渡りの状態だ。頻発する人種問題は、一面では経済問題でもあるのだ。頻発する銃乱射事件の背景にも、こうした閉塞感があるかもしれない。

では、多くの米国人が買えないはずの住宅価格がなぜ上がるのか? 外国人が買っているからだ。

参照:The danger of foreign buyers gobbling up American homes
http://www.marketwatch.com/story/the-danger-of-foreign-buyers-gobbling-up-american-homes-2015-10-08 (英字サイト)

景気対策としての利下げ、通貨安政策は両刃の剣だ。通貨安はその国のモノや資産が安くなるので、外国人が買いやすくなる。それが景気刺激には繋がるのだが、所得増に繋がらないなどで、国民に余力が出てこないと、単に国の資産の安売りになる。その意味では、まだ米ドルは安い。

日本も円安だ。円安と免税によりインバウンド消費が景気刺激となるなかで、所得が伸びないことと増税で国民に余力はなく、単に国の資産の安売りとなっている。日米共に、経済政策により、自国民が貧しくなっていると言えるかもしれない。

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矢口 新

矢口 新

大学卒業後、国内外の大手証券会社にて為替、債券のディーラー、機関投資家セールスを勤めた後、株式会社ディーラーズ・ウェブを創業(2002年5月~2013年5月)。2013年4月まで同社代表取締役社長。