円安倒産

日経新聞に「円安倒産が急増、9月28件、前年同月の3倍に」という見出しがあった。

「東京商工リサーチが8日発表した9月の企業倒産状況によると、円安を原因とした倒産は28件発生し、前年同月の約3倍に膨らんだ。燃料費の高騰が直撃した運輸業が最も多いが、製造業や卸売業など業種は多岐にわたっている。

8月から10月にかけて、円相場は対ドルで約8円の円安・ドル高に振れ、一時約6年ぶりに1ドル=110円台を付けた。それまでも1ドル=100円前後の円相場が続き、中小企業はすでに原材料高や燃料高に苦しんでおり『急激な円安が追い打ちをかけた』(東京商工リサーチの松永伸也情報部長)状況だ。

原材料高など円安を原因とした倒産は今年の4~9月で150件に達しており、前年同期の2倍以上に膨らんでいる。業種別では運輸業の57件が最多で全体の3割超を占める。次いで卸売業の30件や製造業の27件などが続く。

同日発表された9月の全体の倒産件数は827件で、前年同月比0.85%増と5カ月ぶりに増加に転じた。ただ、件数は23年ぶりの少なさだった昨年9月とほぼ同じ水準にとどまっており、円安による倒産の増加が目立つ格好となっている。」

このところ、円安の弊害を挙げる論調が目立つが、それをデータで証明した格好だ。私は現状の日本経済の見通しで、最も明るい要因が円安だと述べている。とはいえ、実際に円安に苦しみ、倒産に至るところもあるはずなので、「最も明るい要因」だと指摘するのは、心苦しくもある。私に政治的な意図や、個人的な利害はない。純粋に経済効果を語っていると理解して頂きたい。現状を正しく認識しなければ、すべてを「円安」のせいにしてしまい、適切な対策も取れないと思うからだ。

燃料高が倒産の一因とされる一方で、日銀は8日公表した10月の金融経済月報で、「このところの原油価格下落が一時的な(物価)下押し要因となって現れる可能性には注意が必要」との警戒感を示した。燃料高を望んでいるようだ。

それはともかく、上記の東京商工リサーチのデータは以下のようなものだ。

「9月の企業倒産件数(負債総額1000万円以上、銀行取引停止処分などを含む)は前年同月比1%増の827件だった。9月として2013年の820件に次ぐ2番目の低水準だった。負債総額5000万円以下の小規模倒産が目立ち、負債総額は1367億9900万円と28%減った

4~9月の倒産件数は前年同期比8%減の5049件だった。年度上半期としては6年連続で減少し、1990年度上半期の3070件以来、約24年ぶりの低水準となった。負債総額は50%減の9078億2000万円と、年度上半期としては4年連続で減少した。負債総額が1兆円を割り込んだのは1990年度の7925億8100万円以来で、約24年ぶりの低水準となった。業種別では10業種のうち農・林・漁・鉱業、不動産業、サービス業他を除く7業種で減少した。」

「原材料高など円安を原因とした倒産は今年の4~9月で150件に達しており、前年同期の2倍以上に膨らんでいる。」一方で、全体の倒産件数、負債総額共に、約24年ぶりの低水準となっている。そういえば、つい先頃までは、円高倒産という声が、よく聞かれたものだ。

このことは、このところの円安により、円高倒産が急減、円安倒産が急増し、トータルでは倒産件数、負債総額共に、バブル期以来約24年ぶりの低水準となったということだ。つまり、円安はデメリットよりも、メリットの方が大きいことになる。これは、倒産しなかった企業の業績面にも現れている。

「2013年度に税務申告した法人のうち、黒字と申告した法人の割合は前年度比1.7%増の29.1%と、3年連続で上昇した。申告所得の総額も前年度比8兆0906億円増の53兆2780億円と、4年連続の増加となった。国税庁は『企業の業績改善がうかがわれる』としている。大企業などに多い連結法人では、1425法人が申告し、黒字の申告割合は前年度比7.5%増の57.5%と過去最高だった。」

黒字企業は全体の3割以下、大企業の連結法人でも昨年までは半分以下だったことになる。それが、3年連続で上昇基調となっている。税収も増え、増加分は2014年度の消費増税分の約5兆円を大きく上回っている。私は、円安効果が最も大きいと見ている。

ところで、円安倒産は、本当に円安が原因なのだろうか? 少なくとも、3%の消費増税分を除いた消費者物価の上昇は1%以下で、モノの値上がりの主因は増税だ。また、電気代の値上がりは、これまで電力会社にカルテルを認めてきた電力行政の在り方に多くを負っている。そうみれば、円安は格好の責任転嫁の材料とされていることが分かる。

円高、円安は外部環境だ。企業業績が外部環境に左右されることは、上記の倒産件数や税申告をみても明らかだ。デフレ環境で業績を拡大し、まるで自分が「持っている」かのような発言をしていた経営者も少なからずいたが、本当に「持っているかどうか」はインフレ環境をどう乗り切るかで判明する。円安を倒産の理由とする経営者は、あえて厳しく言うが、外部環境の見通しが甘いか、対策が取れない経営者だといえる。

相場も同じだ。上げ相場で大きなリスクを取り、天才気取りでいた人たちは、下げ相場で真価を問われる。事業も相場も、転換点の見極めが大事なのだ。

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矢口 新

矢口 新

大学卒業後、国内外の大手証券会社にて為替、債券のディーラー、機関投資家セールスを勤めた後、株式会社ディーラーズ・ウェブを創業(2002年5月~2013年5月)。2013年4月まで同社代表取締役社長。