FFレートは、上げられる時に上げておけ

ジャクソンホール後に、フィッシャー米連銀副議長が「年内2回の利上げもある」と発言したことで高まっていた利上げ観測が、その後の景気指標の減速で、俄かに後退してきた。それらを受けて、一時は104円台に乗っていたドル円レートが、101円台にまで下落している。

参照チャート:ドル円
ドル円日足チャート

年内2回の利上げだとすれば、年内に3回あるFOMCのうち、9月20-21日、11月1-2日、12月13-14日の、どれかで2回上げることになる。2回が難しいとなれば、12月のFOMCは、会合後の記者会見を伴うため、利上げの確率が高いとされている。

連銀関係者の最近の発言で目立つのは、「FFレートの水準が低すぎるので、上げられるならば、上げるべきだ」というものだ。
もっとも、5年前の2011年頃から、同じような発言をする連銀理事たちはいて、市場の注意を引くための「狼少年」などとも言われてきた。

FFレートが1%以下の超低金利になってからでも8年近くになる。金融緩和の効果は明らかで、景気拡大は7年続き、雇用市場はほぼ完全雇用、住宅市場も概ね回復し、都市部ではバブルの兆候も見られるようになった。2011年当時に利上げをすべきだったかどうかはともかく、かなり前から「FFレートの水準が低すぎるので、上げられるならば、上げるべきだ」という環境にはなっていた。

参照図:主要国の政策金利の推移
政策金利の推移

私は「利上げが遅すぎた」と見ている。連銀データ1950年代からの設備稼働率に見る米景気の拡大期は、歴史的にみても最長に入ってきている。
つまり、成長が鈍化してきてもいいような時期に、あえて利上げをしなければならなくなってきた。

参照図:FFレートと設備稼働率
設備稼働率の推移

基本的に、利上げは景気過熱を抑制する手段だ。とはいえ、景気拡大の初期では勢いがあるので、利上げをし続けても、景気は更に拡大する。

一方で、景気拡大期がしばらく続き、加熱し過ぎると、インフレ率が急上昇したり、需要を先食いし過ぎて、その後に大きな反動が来ることになる。
そこで、現状の拡大期が過熱感を伴っていたり、需要を先食いしていたりしないかが問題となる。伸びしろがないところで利上げすると、今度は、景気が失速する懸念が出てくるのだ。

例えば、米新車販売台数は過去6年間伸び続けてきた。その要因としては、雇用回復に加えて、低金利、ガソリン価格の低下、インセンティブによる値引き、新車リースのための業者による購入増などだ。消費者は新車を2年間などリースすると、自動車ローンを組んで購入するよりも1カ月当たりの出費が抑えられる。8月の時点では、新車販売におけるリース比率が32%にもなったようだ。

その販売台数が、このところ伸び悩んできた。ここで金利が上がると、自動車ローンの金利も、リース料も上がることになる。不安材料だ。

とはいえ、このまま低金利を続けると、くたくたになった景気がカンフル剤だけで走り続ける結果となり、続ければ続けるほど、無理に無理を重ねることになる。

ここに及んでの利上げは、走り続けている米景気への「ドクター・ストップ」に相当する。既に遅すぎるが、今、止めないと、更に危険なものとなる懸念があるのだ。

その意味では、私は「年内2回」は上げるべきだと考えている。
しかし、連銀の政策は、従来からの「米雇用市場とインフレ率」の2大目標から、世界の市場動向にまで広がってきた。ところが、世界情勢は残念ながら、安定からは程遠い。このことは、上げられる時に上げておかないと、次はいつになるか分からないことを意味している。

また、米景気の内在的な息切れ、あるいは世界情勢のどちらかで、米景気が悪化した時に、利下げ余地は極めて限られていることも意味している。

いずれにせよ、米連銀を始めとした世界の中央銀行は、政治を意識し過ぎたのか、金融政策の当事者意識を失くしている様に思えてならない。

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矢口 新

矢口 新

大学卒業後、国内外の大手証券会社にて為替、債券のディーラー、機関投資家セールスを勤めた後、株式会社ディーラーズ・ウェブを創業(2002年5月~2013年5月)。2013年4月まで同社代表取締役社長。