日銀金融緩和の副作用に言及した黒田総裁 2/2

【前回記事】日銀金融緩和の副作用に言及した黒田総裁 1/2

―黒田日銀の行き着く先は、スタグフレーション―

(以下、講演内容)
参照:金融緩和政策の「総括的な検証」

第2の検証ポイント:導入から半年が経過した「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」について

1)国債や貸出・社債などの金利は大きく低下した。この先、貸出等の金利の低下にどの程度波及するかは、一概にはいえない。

2)金融市場の流動性や金融機関の収益などに影響を及ぼしている。預金金利がそれほど低下していない中にあって、貸出金利が大きく低下したということは、それが金融機関の収益を圧縮する形で実現しているということ。

このことは、1)の点と密接につながっている。今後の貸出金利への波及は、金融機関の貸出運営スタンスにも影響される面がある。

特に、わが国の場合、預金残高が貸出残高を大幅に上回っていること、長期間にわたって金融機関間の競争が続いたため、預貸金利鞘が既にきわめて低水準となっていることなどから、マイナス金利が金融機関の収益に与える影響が相対的に大きい。

3)マイナス金利導入後、長期金利や超長期金利の水準が大幅に低下しているが、こうしたもとで、保険や年金の運用利回りの低下が見込まれており、貯蓄性の商品の一部で販売停止などの動きがみられている。

一部には、割引現在価値でみた退職給付債務が増加し、減益要因となっている企業もみられる。

こうした現象が直接的にマクロ経済に及ぼす影響はそれほど大きなものではないかもしれないが、マインドという面で、人々の間に広い意味での金融機能の持続性に対する不安をもたらし、経済活動に悪影響を及ぼす可能性には留意する必要がある。

(講演内容ここまで)

第2の検証ポイントは、マイナス金利政策の問題点を列挙したと捉えるのは、私だけだろうか? もっとも、これらの問題点はマイナス金利政策に始まったものではなく、デフレ、ディスインフレ環境が長引き、ほぼゼロ金利政策の時点から挙げられてきた問題点だ。
それをマイナス金利政策導入後、半年経っての「検証ポイント」とするのは、いまさら感が拭えず、心もとない。

そして、金融機関、保険、年金に対する悪影響が「直接的にマクロ経済に及ぼす影響はそれほど大きなものではない」が、「マインドが心配」だと言うのでは、精神論が先行しているようで、今後の政策に不安を覚える。

私は日本人がモノを買わなくなったのではなく、買えなくなったと見ている。でなければ、高級店が苦戦し、安売り店が伸びる説明がつかない。一方、安売り店が苦戦するのは、高級品に回帰したのが理由ではない。払わないのではなく、払えないのだ。マインドは常に後からついてくるものだ。

(以下、講演内容)

これらの点について、事実と理論に基づいて客観的な分析を行ったうえで、政策面で、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するために何をすべきか、議論したい。あくまで2%の早期実現のために行う検証なので、市場の一部でいわれているような緩和の縮小という方向の議論ではない。

もちろん、マイナス金利の深掘りも、「量」の拡大も、まだ十分可能であり、政策手段の面では幅広い選択肢がある。その中で、経済・物価・金融の状況に応じて、最も適切な政策対応を検討していくことになる。

一方で、実際に長期間にわたるデフレに陥った日本では、先進国の中でも、最も強い金融緩和政策が必要となり、これらのすべてが実施された。この結果、わが国では内外に例をみないようなきわめて緩和的な金融環境が実現している。

こうした金融環境を企業や家計が前向きな経済活動に活用してほしいと願っているが、そのためにも、先程述べた「自然利子率」を高めること、すなわち、構造改革の取り組みを通じて潜在成長率を高める必要があることを改めて指摘しておきたい。

金融政策で意識すべきは「限界」ではなく、どのような公共政策においても考慮すべき「ベネフィット」と「コスト」の比較。

どんな政策にもフリーランチはない。ここまで大規模な緩和を行っている以上、当然に、追加措置の「コスト」はあるし、それによって不利益を受ける主体も出てくる。しかし、それが日本経済全体にとって必要なのであれば、つまり「ベネフィット」が上回るのであれば、躊躇するべきではない。

そして、大事なことは、この「ベネフィット」と「コスト」の比較衡量は、状況よって異なる。機動性を旨とする金融政策においては、経済・物価あるいは金融の状況によっては、「コスト」を考えたうえでなお思い切った措置が必要になる。選択肢は、いつも準備しておかなければならない。

最後にもう一言だけ付け加えると、長年のデフレからようやく抜け出そうとしている日本経済にとって、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現することの「ベネフィット」は大変大きいと思っている。日本銀行は、その実現のために、今後とも最大限の努力を続ける。

(講演内容ここまで)

BOJウォッチャーによれば、黒田総裁が「金融政策には、ある種の副作用みたいなものもある」、「今後はコストとベネフィットを比較しながら政策運営する」という発言をしたのは、初めてだと言う。つまり、これまでは「この商品には全くリスクはございません」と、メリットだけを強調する販売員と同レベルだったということだ。

ここにきて、「ベネフィット」と「コスト」とが切り離せないことが分かったことは、良しとしよう。しかし、2%の物価安定の目標という「ベネフィット」が、追加緩和による金融市場、金融機関、保険、年金などへの更なる悪影響、つまりは国民生活の破綻の可能性を高めるという「コスト」よりも、大きいと考えているのだろうか? これでは国民の「マインド」は冷え込むばかりだ。

この講演の内容から、BOJウォッチャーの中に、論理的な結論は「追加緩和なし」とする見方がある。とはいえ、私には、この講演がそれほど論理的だとは思えない。追い詰められた挙句に「論理が破綻」しているように見える。そうであれば、論理的な結論は「追加緩和なし」ということも、論理的だとは言えない。

誰が黒田総裁をそこまで追い詰めたか? 私は消費税だと見ている。日本の金融政策は消費税導入以降、その尻拭いだけをさせられてきたように思えてきた。

私が黒田発言から感じ取れるのは、「あくまで2%の早期実現のために行う検証なので、市場の一部でいわれているような緩和の縮小という方向の議論ではない」という「決意」だ。追い詰められた挙句に「論理が破綻」した人が、しばしば取る行動は、自暴自棄な突撃だ。

その意味で、私は何があっても驚かない。現状では日銀が何をしても、日本経済は(国債価格や株価が上がっても)良くはならない。金融市場、金融機関、保険、年金などをコストとする、インフレ率目標2%は、ベネフィットどころか、スタグフレーションだ。

日本の経済を良くするには、黒田氏の講演にも垣間見られるデフレの元凶を絶たねば駄目だ。つまり、消費税率の引き下げだけが、日本経済再生の道かと思う。

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矢口 新

矢口 新

大学卒業後、国内外の大手証券会社にて為替、債券のディーラー、機関投資家セールスを勤めた後、株式会社ディーラーズ・ウェブを創業(2002年5月~2013年5月)。2013年4月まで同社代表取締役社長。