日銀金融緩和の副作用に言及した黒田総裁 1/2

―消費税導入が失われた20年の主因―

9月21日に開かれる次回の金融政策決定会合で、日本銀行は「量的・質的金融緩和」の「総括的な検証」を実施する方針を明らかにした。
市場では、これまでにない「大規模な追加金融緩和を行う」という見方と、「追加緩和なし」が論理的な帰結だと、見方が大きく分かれている。

そこで、9月5日の黒田総裁の講演内容をもとに、「総括的な検証」と今後の緩和政策についての私見を述べたい。

私が気に留めた講演内容の要点を以下にまとめる。
人は見たいものを見たいようにしか見ない傾向があるので、それなりの長さのある発言などの一部分だけが強調され、「誰々がこういった」と、賛辞や非難の対象になってしまうのは避けられないことだ。そこで、少しでも公正を期するために、講演の原文を紹介するので、ぜひ参照して頂きたい。

参照:金融緩和政策の「総括的な検証」

(以下、講演内容)

9月下旬に開催する次回決定会合において、「量的・質的金融緩和」導入以降3年間の経済・物価動向や政策効果について総括的な検証を行うこととしました。本日は、この「総括的な検証」について、お話しします。

第1のポイント:金融政策がどのように機能し、何が2%の実現を阻害したのか

成果:
1)企業部門では、中小企業を含めて企業収益が大幅に改善
2)家計部門では、雇用・所得環境が大幅に改善
3)物価の基調も明確に改善。2013年秋にプラスに転じた後、2年10か月連続でプラスで推移。長期間にわたって消費者物価の前年比がプラスで推移したのは、1990年代後半に日本経済がデフレに陥って以来、初めて

阻害要因:
1)原油価格
2)消費税率の引き上げ後の個人消費を中心とする需要の弱さ
3)15年夏以降の新興国経済の減速

(講演内容ここまで)

成果1、2の主要因は「爆買い」を含めて、円安だろう。2013年4月のドル円レートは97円台なので、異次元緩和による円安効果、つまり、1、2の成果は、一部分のみとしたい。

成果の3は、物価は目標にはほど遠いものの、まがりなりにも2年10カ月連続でプラスを維持し、これが1990年代後半に日本経済がデフレに陥って以来、初めてだということだ。

消費税率3%が導入されたのは1989年、5%に引き上げられたのが1997年だ。1997年には日本の名目GDPが過去最大となり、物価が2年10カ月連続でプラスで推移した今も、更新できていない。物価やデフレと、消費税導入とには関連性があるのだろうか?

ここで、物価目標達成の阻害要因として、2)に、「消費税率の引き上げ後の個人消費を中心とする需要の弱さ」が挙げられている。この場合の阻害要因は、過去3年半に限ってのことだが、「1990年代後半に日本経済がデフレに陥った」直前にも消費税率の引き上げがあったことを鑑みると、ここでも増税が個人消費を中心とする需要の弱さにつながったことは明らかだ。
つまり黒田発言は、消費税率の導入が、いわゆる失われた20年の主因である可能性を述べていることになる。

ここで、阻害要因の1と3に挙げた原油価格や新興国経済が、この期間中にも上げ下げを繰り返したことを鑑みれば、1990年代後半以降の恒常的なデフレ要因は、「2)消費税率の引き上げ」以外にはなくなる。黒田発言は、そのことを暗に、しかし、強く示唆していると解釈できなくもない。

参照:日本の名目GDP
日本の名目GDP

(以下、講演内容)

「フォワード・ルッキングな予想形成」が十分強く働いている場合には、何らかの要因で実際の物価が目標から上下に外れたとしても、人々はいずれ2%といった目標近くに戻ると考えるため、価格や賃金の設定もそうした考え方を前提に行われます。このため、実際の物価についても、目標に向けて戻る力が働きます。このような状態を、予想物価上昇率が「アンカーされている」と表現しますが、物価の安定を目標とする中央銀行にとっては望ましい状態です。

日本銀行は、「量的・質的金融緩和」を推進することによって、「フォワード・ルッキングな予想形成」を強化し、人々の予想物価上昇率を2%の「物価安定の目標」にアンカーさせることを目指して来ました。しかしながら、「フォワード・ルッキングな予想形成」が十分に定着する前に、原油価格の大幅下落などの諸要因によって実際の物価上昇率が低下したため、「適合的な予想形成」を通じる形で、予想物価上昇率が再び低下したものと考えられます。

(講演内容ここまで)

ここでも、「株価は人気である」、「景気は気(マインド)である」というスタンスが採られている。そこで、日本銀行は「人々の予想物価上昇率を2%の『物価安定の目標』にアンカーさせることを目指して来ました」とある。

ところが、「実際の物価上昇率が低下」したために、「予想物価上昇率が再び低下した」と説明している。

実際の物価上昇率の低下は、1)原油価格、2)消費税率の引き上げ、3)新興国経済の減速が3大要因だと説明している。つまり、マインドでは、実際の物価上昇率を左右できないことが判明しているにも関わらず、マインドに訴えかける政策を行っていることになる。明らかな論理の矛盾だ。

次回は、「第2の検証ポイント」について私見を述べる。

【続き】日銀金融緩和の副作用に言及した黒田総裁 2/2

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矢口 新

矢口 新

大学卒業後、国内外の大手証券会社にて為替、債券のディーラー、機関投資家セールスを勤めた後、株式会社ディーラーズ・ウェブを創業(2002年5月~2013年5月)。2013年4月まで同社代表取締役社長。